?工部美術学校女子生徒秋尾園資料の研究―369―研 究 者:茨城大学 教育学部 教授 金 子 一 夫Ⅰ 序論1.研究目的平成16年に工部美術学校基礎科目の課題制作を多数含む、工部美術学校女子生徒であった中島(秋尾)園の資料が出現した。明治9年(1876)に創設された工部美術学校に関する公文書の調査は進んだとはいえ、未だ基礎的研究が十分になされてはいない。しかも、それら基礎的資料が現存するのかどうかもはっきりしなかった。本研究は、この新出資料―在学中の氏名を踏まえて秋尾園資料と呼ぶ―を基に工部美術学校の西洋画の基礎教育について検討する。そして写真家中島精一に嫁いで夫の手伝いをしたことしか知られていない彼女の経歴も、この機会に明らかにしたい。2.先行研究工部美術学校の教育について最もまとまった最新の研究は、拙著『近代日本美術教育の研究 明治・大正時代』(中央公論美術出版、平成11年)所収の「第二章 工部美術学校における絵画・彫刻教育」である。ただ、基礎科目に関する資料が発見されていなかったため、基礎科目の具体的内容に関しては推測するしかなかった。秋尾園の経歴も従来の指摘を出るものではなかった。3.問題の所在研究目的で述べたように工部美術学校の基礎教育について検討するものである。既に科目・学習項目及び各人の年度別履修は公式には明らかになっているので、本研究で解明したい問題は以下のようになる。ア 従来知られていなかった秋尾園の経歴を明らかにする。イ 課題資料が公式の秋尾園の履修記録と一致するかどうか。ウ 課題の具体的内容から教科書・手本等が特定できるか。エ 工部美術学校の西洋画基礎教育は、どのようなものと概括できるか。4.研究方法課題資料を年記順に整理し、無年記資料を欠落部分にあてはめていき、教育課程を再構成する。教育課程は何らかの意図・原則に則って配列されている。そしてそれは教育論だけでは何らかの美術観を基礎にしているという立場にたって検討する。
元のページ ../index.html#379