注ルボーク(ロシア)、李朝民画(朝鮮半島)、浮世絵(日本)、掛軸画(沖縄)等がある。 Durand, Maurice. Imagerie Populaire Vietnammienne. École Française d’Extrême-Orient: Hanoi, 1960.■Bui Van Vuong. From Do Paper to Vietnamese Folk Prints(The Gioi Publishers: Hanoi, 2003.); PhanCam Thuong, Le Quoc Viet, Cung Khac Luoc. The Ancient Graphic Arts of Vietnam.(Nha Xuat BanMy Thuat: Hanoi, 2003)ほかを参照。■田所政江「東アジアの民衆絵画中:中国年画とベトナム・李朝の民衆絵画」(『月刊しにか』74, 1996.5, pp. 88−96);同「春を招くドンホー版画」(『季刊銀花』102,1997冬,pp. 69−73)ほかを参照。■銭存訓『中国紙和印刷文化史』広西師範大学,2004,p. 326■シン村は、中部の旧都フエの北7kmに位置し、現在も数軒が版画制作を行なう。内容は母道信仰の神像など宗教題材を大半とする。曾ては土地に取材し自製したという素材も、現在はロール紙やポスターカラー、スポンジ筆などを使用する。画種も少なく衰微傾向にあるといえる。■「宗教、歴史、教育、佳景、諷刺、喜劇、祝頌、護符」と分類する例もある[Durand: 12]。―385―おわりにベトナム民衆版画は、中国民衆版画の類例の中でも最も関係性が深いものである。工房形態や技法、画題選択に関する調査と考察を通じ、中国由来の技術、風習、図像ソースが、風土や風俗に合わせたカタチ・意味へと変化し、自家嚢中のものとして根づいていることが確認された。これは、外来性に意味づけを残し部分摂取に留まる沖縄の事例とはまた関係性の位相が異なる。明末以降の南部沿海地域を中心とする人的交通をはじめ、長期間かつ多方向での交流の深さと厚みが関係するだろう。また限られた既知の産地のうちでさえ、風格はもちろん生産体制や技法、彩色法や素材に至るまで画一的でなく各々特色を異にする点に、ベトナム民衆版画の棲み分けの様相と幅の広さが示される。中国とベトナムの民衆版画の間には、主に生産規模や風土の違いに起因する偏差があるものの、題材や意味・機能などの基本的性質、近代以降のメディア化と伝統美術化、更に生活の変化による実質的衰退と観光資源化の加速、それに伴う意味・機能の変質においても共通し、民衆版画に必然的な傾向を示している。上記考察を通じて見えてきたことを総括すれば、それは民衆版画と生活との密接な結びつき、動的に変化し続ける画や図像の活きた側面であるといえるだろう。今後の課題は、なお不足する資料収集と整理分析を継続しつつ、未知の産地や交渉の具体的動向について、本考察を深めてゆくことである。ベトナム民衆版画独自の特性についても今回は触れられなかったが、興味深い問題を数多く含んでいる。沖縄の掛軸画との比較考察も含め、稿を改めて論じたい。
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