―419―傳三郎 発行所:便利堂)が、遙邨旧蔵資料として、京都府総合資料館に入っている。この特別展覧は目録を見ると、主に個人所蔵の作品が出展されており、飯田新七や藤井善助など実業家のコレクターの他、京都画壇の日本画家の面々では、土田麦僊が4点出品している。その他画家では石崎光瑤、木島櫻谷、木村斯光、榊原紫峰、登内微笑、南画家の上田丹崖、さらに民芸の柳宗悦などが出品している。遙邨の1926年頃の作品と思われる「冬日」〔図3〕など、遙邨作品には珍しいと言える一連の花鳥画について、古画研鑽の中で狩野派の作品との関わりなどが指摘されているが(注5)、これに南宋院体画の研究を加えてもよいだろう。ただ、こうした精緻を極めた花鳥画は、遙邨の資質にあわなかったのか、この一時期を除いては現在のところ殆どみられない。では実際に残されている遙邨の模写を見てみよう。遙邨の古画模写で、現在確認されているものは、以下の通りである。① 絵巻などから直接模写したもので大正末頃のものと思われるもの 24枚② 絵巻などからの模写だが、複製画からの模写である可能性のあるもの 模写制作年は不明。「北野天神縁起」より1枚(巻3、醍醐天皇行幸の列の一部)「福富草紙」より9枚(8場面、上巻より4場面、下巻より4場面)③ 近世の洛中洛外図などからの模写と思われるもの 模写制作年は不明 32枚③については、模写された紙のサイズ・種類が②と同じのため、②と同時期に模写されたものと思われる。さて、実際に集中的に古画を研究した大正末頃の模写は①で、②と③は後年、おそらく昭和初期頃に模写したものであろう。この推論については後述するが、ここでは①について詳しく見てみよう。①の模写、24枚はそれぞれ、サイズは約55.0×79.0cmもしくは約140.0×53.0cmのもので、1枚に2、3の場面、場合によっては異なる原本から模写されている。その中で、原本と照合できたものを下記に記す。なお「」内のタイトルは遙邨が模写に記述していたもの。・《釈迦八相図》(「釈迦如来八相図」:滋賀県石部町・常楽寺蔵・京都国立博物館寄託 鎌倉時代)釈迦の誕生から涅槃に至る主要な事蹟8件を絵画化した画題「釈迦八相」のうち、
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