鹿島美術研究 年報第25号別冊(2008)
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―421―にこだわらず、名所・名跡を取材したものと考えてきたが、大正末の模写が遙邨に回り道をさせる契機となったと考えられよう。・《春日権現験記絵》(「春日権現霊験記」:御物。旧春日神社蔵、現在は宮内庁保管(東山御文庫)鎌倉時代)。西園寺公衡が氏社春日社の霊験に報賽するため奉納した絵巻。遙邨は3場面3枚の模写を残している。・〔図9〕巻10−14紙(第7段):教懐上人の病を癒した貴女姿の春日大明神が飛び去る場面。ただし春日大明神の姿は省かれている。模写左半分は一遍上人絵伝。・〔図10〕巻16−5紙(第2段):解脱上人が笠置の般若台に春日大明神を勧請するため、笠置山の山道を登る場面。ただし解脱上人や同朋の僧・真恵房ら一行の姿は省かれている。・〔図11〕同じく巻16−5紙(第2段):真恵房の夢の1場面。勧請の社の裏手の山に現れた春日大明神のお使いの鹿。・《一遍聖絵》(清浄光寺・歓喜光寺・東京国立博物館蔵、鎌倉時代)時宗の開祖・一遍の行状絵巻。弟子の聖戒が編纂、円伊画。最も模写箇所が多く遙邨が模写した中で判明しているのは、9箇所からの模写。巻も第2・3・5・6・10巻と、全12巻5巻まで模写をしている。・〔図12〕巻2−5紙:伊予国の菅生寺の岩屋。下半分部分が絵巻の先、上半分部分が絵巻の後。上半分の模写では、梯子で岩山の堂宇に登る人物、堂宇の前にひれ伏している人物などが割愛されている。・〔図13〕巻3−4紙:熊野川の川下りの場面。本宮の参詣を終えた人々が舟で新宮に詣でるが、ここでは船と乗客、山道を行く人物が省かれている。・〔図14〕巻3−4紙:那智の滝・〔図15〕巻5−4紙:下野国小野寺の境内。雨宿りをする時宗一行の姿は省かれている。模写の右半分に春日権現験記絵・〔図16〕巻5−6紙:白河の関。祠の前にぬかずく一遍の姿は省かれている。・〔図17〕巻6−5紙:富士山。模写の下半分部分の元絵は不明。・〔図18・左部分〕巻10−5紙:備後国一の宮、吉備津神社。備後一宮と書き込みあり。・〔図18・右部分〕巻10−7紙:厳島神社背後の弥山。その前の神社拝殿はほぼ省略

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