鹿島美術研究 年報第25号別冊(2008)
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―430―「ブリッカブラック」として取り上げられたことは、日本の蒔絵がまさに高価ではな配される。「Bric a Brac」は連載記事で、毎回異なる話題がとりあげられている。「ブリッカブラック」は高価ではないが面白い魅力的な品々という意味の語だが、蒔絵がいが一風かわった面白い装飾品であるという、当時の米国における評価を表している。この記事が発表された明治十三年(1880)は、パリで二度目の万国博覧会が開かれた二年後にあたり、フランス、イギリスなどヨーロッパにおいて日本の装飾美術品への関心高まっていた時期と重なる。このアメリカで発行された雑誌記事も万国博覧会開催にあわせて日本政府が刊行した報告書、博覧会の後フランスで刊行された美術批評誌『ガゼット・デ・ボザール』に掲載された記事などを基に書かれている(注7)。の紹介など日本の漆器についての基本情報がうまくまとめられている。パリ万国博覧会に出品された日本の漆器が好評を博したことが記され、さらに日本漆器とヨーロッパとの関わりが十八世紀以前に遡ること、そして鎖国の時期にオランダ東インド会社を経由してヨーロッパにもたらされた日本の漆器は、陶磁器に増して貴重な品であったことが記される。ルイ十五世の寵姫ポンパドゥール夫人の蒔絵蒐集にふれ、欧米における最も充実した蒔絵コレクションはルーヴル美術館に収蔵されるマリー・アントワネットの蒔絵コレクションであることなども紹介され、日本にもたらされた江戸期の蒔絵がいかに優れたものであったかを記している。そして本誌は欧米における著名なコレクション、コレクターとともに、当代アメリカを代表する日本の漆器コレクターとしてウィリアム・T・ウォルターズ(1824−94)を紹介している。この記事はかつてヨーロッパで稀少であった蒔絵蒐集が十九世紀の後半に新興国アメリカの上流階級に飛び火したことを端的に表している。ウォルターズが1884年に刊行した『オリエンタル・アート』の記述によればコレクションに含まれる日本の作品は陶磁器が四百、刀装小道具が八百、根付が五百、そして蒔絵は五百点を数えている。二、『Catalogue of Japanese Lacquers』に掲載されたフィラデルフィア博覧会出品蒔絵マーサ・ボイヤー氏によれば1876年のフィラデルフィア博覧会でウィリアム・T・ウォルターズが購入した蒔絵は四十三件とされる。器種ごとに分類すると、香合十二件、香箱五件、重香箱四件、香箪笥二件、香道具箱一件、香道具棚一件、菓子箱が一件、棗三件、印籠二件、硯箱二件、料紙箱一件、絵具箱一件、短冊箱一件、杯五件と「JAPANESE LACQUERS」は漆の精製方法、漆器及び蒔絵の製作方法、簡単な歴史

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