―432―家什、漆器、木製品に分類されている〔表1〕。紀伊黒江(和歌山県海南市)、陸奥弘前(青森県弘前市)、大阪、羽後能代(秋田県能代市)、越前敦賀(福井県敦賀市)、琉球島(沖縄県)、駿河静岡(静岡市)、京都、加賀金沢(石川県金沢市)、東京など、当時の漆器産地からの出品者が報告される(注10)。このうち第六十八号と第六十九号には若井兼三郎が社長をつとめる東京の輸出品製造業者である起立工商会社からの出品物があげられる。第六十八号は「新工a漆家具」として、岩崎巳之助など起立工商会社と雇用関係にある漆工に新規に製作させた新作漆器類が記される。また第六十九号には「古a漆類集(凡千百年前より三十年前ニ至ルモノ)中古己来有名ナルa工ノ製品類集」と記されており、具体的な品目の内訳はないが古漆器が出品されたことがわかる。前出の図によれば、起立交渉会社については古漆器と、博覧会のために制作された新しい漆器が区別されて展示されていたこともわかる。また第七十号には東京の箕田長次郎を出品者として新古a漆として多数の器物が記される。冒頭には「書架 山水草花製a百五十年前の良品」をあげ、次に「新製書架十九個 山水画 柱彫刻 近江八景 墨江風景 吉野山水」と記し、箕田も古物と新作の両方を出品したことが記される。報告書に見られる展示品のうちわけは、かなり大雑把なもので、作品に関する詳細はわからない。しかしウォルターズが箕田長次郎から購入した「唐子遊蒔絵香箪笥」〔図1〕はアルバン・S・ハーパー(1847−1911)が万国博覧会会場で撮影した写真に掲載されている。本器は梨子地に唐子の遊ぶ様子が金銀の薄肉の高蒔絵に朱漆を交えて描かれた精緻な作である。この器形は江戸期に国内向けに制作された香包みを収納するための箪笥である。抽斗には香盆や香箱も収められている。四、ヘンリー・ウォルターズの手帳平成十六年、大阪市立美術館、東京国立博物館、名古屋市博物館の三館共催で「万国博覧会の美術」展を開催した。平成十四年にこの展覧会開催の予備調査としてウォルターズ美術館を訪れ、ウォルターズコレクションの作品がフィラデルフィア万国博覧会出品作であると同定されたいきさつについてご教示いただいた。その結果作品購入履歴など収蔵品の購入に関する資料の大半は1904年の大火で消失してしまったが、一部の作品には来歴を表すラベルが貼られていること、フィラデルフィア博覧会の購入品についはウィリアム・ウォルターズの記した手帳があることがわかった(注11)。この手帳の存在については同館の学芸員ウィリアム・R・ジョンストン氏が執筆したウォルターズ親子の伝記にも少しふれられている(注12)。今回の調査では同館研究
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