―433―員であるロバート・ミンツ氏のご協力を得て手帳の技術と作品の照合作業が行えた。手帳は横10cm、縦15cmで、ノートは七十六頁からなる。綴じられた表紙には「Centennial Exhibition, 1876, Object Purchased」とあり、裏表紙にはインデックスが記される(注13)。インデックスによれば一頁から十六頁が箕田長次郎、二十頁からが若井兼三郎、十七頁からが山田とある。全七十六頁に記される作品数は約五百五十点である。このノートの構成は七十六頁であるが、ヘンリー・ウォルターズが頁番号を打っている頁はこのうち二十五頁分である。これらの頁番号はノートを見開いた場合、全て右側頁にふられている。おそらくノートは右頁から書きはじめられ左側頁の記述は後から加筆された可能性が高い。またウォルターズがふった二十五頁目に当たる頁は、実際の頁では五十三頁目にあたる。そしてこの五十四頁目以降には日本ではなく、中国やロシアの作品が記されている。そのため実質的には五十四頁以降に記される約百五十点の作品は日本関係の作品から除外しなくてはならない。即ち手帳の記述から、約四百点の日本の作品がフィラデルフィア博覧会購入品とわかる。これらのノートに記される作品の中に百五十六点の漆器に関する記述が見いだせた。〔表2〕は漆器のみを抜き出したものである。手帳に記された記述は、例えば「gold lacquer box 200years(200年前の金色の漆の箱)」、「Turtle and Japanese lac box(亀と日本の漆の箱)」などと記され、記述内容からだけでは実際の作品を同定するのは困難である。しかし購入時から収蔵品に貼られていたと考えられるラベルは手帳の数字と連動しており、ウォルターズ美術館の長年の研究によって、六十点前後の作品がこの手帳に記録された作品と合致することが明らかになっている。マーサ・ボイヤー氏の記述と若干異なる作品もあるが、氏の研究もおそらくこの照合作業の結果と連動していると考えることができる。今回の調査では、手帳の記述とウォルターズ美術館の収蔵品に貼られたラベル、作品を照合しながら、同館所蔵の蒔絵のなかから、フィラデルフィア万国博覧会出品の同定を試み、七十点の作品がヘンリー・ウォルターズの手帳と照合することができた〔表3〕。しかし残念なことに展示室に陳列中の作品と、既にラベルが剥がれされた作品については調査が不可能であったことから、全てがラベルと照合されたわけでなく、若干の不確実性は否めない。例えば「唐子遊蒔絵香箪笥」〔図1〕はアルバン・S・ハーパーが万国博覧会会場で撮影した写真に掲載されており、博覧会出品作品で箕田長次郎から購入した作品の印である五百十六番というラベルがあるものの、手帳にはその番号を見いだせなかった。この作品を含め、マーサ・ボイヤー氏が著作を編纂した時点で、フィラデルフィア博覧会出品作と同定されたもののうち六点については手
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