鹿島美術研究 年報第25号別冊(2008)
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)初期水墨画の研究 瀬戸内地域所在の白衣観音図を端緒として―441―2.2006年助成研 究 者:九州大学大学院 文学研究科 修士課程修了  立 畠 敦 子はじめに墨の濃淡、筆の抑揚やにじみ、擦れなどにより物象を表現したものを水墨画とよび、とくに、鎌倉時代後期より室町時代前期頃に制作された作品は、制作時期がはやいことと水墨技法がまだ発展途上という意味から初期水墨画とよばれている。白衣観音はその初期水墨画においてもっとも好まれた画題のひとつで多くの現存作例があるが、それには墨の濃淡、筆の抑揚などといった水墨の技法がこの尊像を効果的にあらわすことができることと、白衣観音の清浄で静謐な姿が禅僧の理想の形と考えられ、禅林で多く愛好されたことが一因と考えられている。瀬戸内地方の寺々には、こうした初期水墨画の図像的・技法的特徴をもつ白衣(楊柳)観音図が比較的まとまって伝来しており、これらは初期水墨画の諸相を考える上でも、さらにこれまであまり論じられていない藍本となった請来白衣観音の図像やその受容について考察する上でも好例である。本研究は今回の調査で得られた知見から、我が国における白衣観音図の図像や請来仏画のバリエーションを類推し、白衣観音図の制作過程および思想的背景を試考するものである。一、展開瀬戸内地域に伝来する鎌倉〜室町時代(南宋〜明時代)に制作された白衣観音図の作例として次の10点が確認できる。(10点については報告書中に例示する際は番号+所蔵寺本とする。作品名は寺伝を優先した。単位はセンチメートル。)1.広島県尾道市 持光寺 白描楊柳観音画像 絹本墨画 一幅 84.5×35.8〔図1〕2.岡山県倉敷市 清瀧寺 白衣観音図 絹本墨画 一幅 51.8×104.7〔図2〕3.岡山県倉敷市 宝島寺 白衣観音図 絹本墨画淡彩 一幅 84.7×37.9〔図3〕4.岡山県備前市 正楽寺 白衣観音図 絹本墨画 一幅 95.8×37.6〔図4〕5.山口県下関市 三恵寺 白衣観音図 紙本墨画 一幅 85.0×33.3〔図5〕6.香川県 個人 白衣観音図 絹本着色 一幅 142.0×46.0〔図6〕7.香川県琴平町 金刀比羅宮 楊柳(瀧見)観音像 絹本着色 一幅 116.0×39.3〔図7〕

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