二重の時間=縁起的時間と参詣/観覧の時間、 二重の空間=在地の景観と縁起的―470―(当日発表順)「中世掛幅縁起絵のマトリックス」「江戸絵画の公と私―狩野派と浮世絵」化・革新を目指して〉という、20世紀を中心とした統一テーマとは別に、日本美術の特別セッションが設けられることとなり、〈日本美術の機能―公と私の間〉というテーマが設定され、イギリスのジョン・カーペンター氏、カナダのジョシュア・モストウ氏、日本からは河野元昭氏、ジャクリーン・ベルント氏(横浜国立大学准教授)、加須屋明子氏、佐野みどり、そしてポーランドのマホトカ・エヴァ氏という計7名による発表が加わることとなった。この日本美術史特別セッションは、研究発表最終日に開催されたが、会場は盛況で、発表後の討議も発表者同士あるいは会場とのやり取りなど、熱のこもった議論が交わされ、きわめて充実したシンポジウムとなった。なお、29日は、上記7名によって、マンガ日本美術芸術センターにおいて、ヤシェンスキーコレクションやポーランド国立美術館所蔵品を中心に、日本美術の調査も行った。本助成をうけた発表者の発表題目及びレジュメは以下のとおりである。佐野みどり(学習院大学教授)中世日本絵画、とりわけ14世紀絵画の注目すべき現象は、掛幅縁起絵の流行である。それらは寺社の縁起もしくは特定の霊場をめぐる霊験譚あるいは宗派の始祖の伝記を大画面に描いたもので、中世の信仰の可視的証言としてとくに歴史学や宗教学の分野で関心を寄せられてきました。しかし、在地の景観と宗教的・縁起的図像が位置(空間軸)の象徴形式を形づくり、聖俗が入り組んだ位相を示すこれらの絵画はその生成面からも、またその絵画の語りの構造面からも美術史的にもっと注目されねばならない。今回の報告は、美術史の側から、これらの中世掛幅縁起絵の構造を考えるもので、空間(地図性/地誌性)、■中世掛幅縁起絵相互の〈使いまわしの奇瑞〉をとりあげ考察する。河野元昭(秋田県立近代美術館長)橋本雅邦は川越藩御用絵師橋本清園の子として、江戸木挽町の狩野勝川院雅信邸内に生まれた。ほとんど生まれながらにして御用絵師だったといってもよいであろう。1846年、狩野晴川院養信に入門するが、間もなくその師が歿したため、跡を継いだ雅
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