―478―pp. 115−126.“The production of the Vatopedi Octateuch,” Dumbarton Oaks Papers. XXXVI(1982),“The production of the Vatopedi Octateuch,” XVI. Internationaler Byzantinistenkongress,Akten. Ⅱ. 4Teil, 1982, pp. 197−201.1977年に修士号取得、1980年には博士号を取得し、1982年以降母校であるロンドン大学付属コートールド美術研究所で研究・教育に携わる。現在は同研究所教授である。もともとはビザンティン写本の研究者として名声を得たが、近年はフランス・ゴシックの「ビーブル・モラリゼ」と呼ばれる聖書註解写本のジャンルに新たな可能性を切り拓き、精力的に執筆を行う。西洋中世写本挿絵の研究者として、現在世界の第一人者であることは衆目の一致するところである。1980年代までは、ビザンティン写本の研究はK・ヴァイツマン(当時プリンストン大学教授。最近、辻成史氏による翻訳『古代・中世の挿絵芸術』(中央公論美術出版)が刊行された)による理論が研究の趨勢を占めた。すなわち、聖書写本挿絵には、古代末期に遡る「原型(アーキタイプ)」があって、後代の写本は多かれ少なかれ原型の写しである、とするものである。したがって9〜14世紀の写本挿絵を検討することによって、失われた「原型」がいかなるものであったか、復元可能であるとヴァイツマンは考えた。このヴァイツマン理論に真っ向から反論したのがラウデンであった。コートールド美術研究所に提出された博士論文The Vatopedi Octateuch and its sources. CourtauldInstitute of Art, University of London. Ph. D. thesis, 1980.(『ヴァトペディ八大書とその淵源』)は、聖山アトスのヴァトペディ修道院が所蔵する八大書(旧約聖書の冒頭8文書)写本の挿絵について、その図像学的モデルを可能な限り探求したものである。この成果は以下の学術雑誌掲載の論文にも発表されている。これらを踏まえた集大成が、単行本『モーセ八大書』The Octateuchs: a Study inByzantine Manuscript Illumination, Pennsylvania 1992. である。ヴァイツマンがその理論構築上根本にすえた八大書という写本群に関して、ヴァイツマン理論を批判する形で提出されたものである。その基本的な方法論は、1)挿絵1点をとり出して論じるのではなく、写本全体の文脈の中で考察する、2)コディコロジー(冊子学)的な側面を重視する、ということである。ラウデンは写本の綴じ方、装丁、折丁の状態、罫線のパターン等を総合的に記述した上で、「写本全体」を議論しようとしたのである。証明しようのない仮説に基づいて議論することは不毛である、現存する作例からわか
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