―486―佐々木守俊氏にも総会全体のコメンテーターとして参加いただいたため、氏が教授と約7年ぶりに交友を温める機会ともなった。こうした機会を設けることができたことによって、本研究会は文字通り、国際的な研究成果の交流の場として機能することを内外に示すことができた。したがって、日本におけるスペイン美術史研究者の交流の場として設立された本研究会にとっては大きな意義をもつ総会となった。次に、4月26日に長崎県美術館で行われた講演「スペイン美術とスペイン」では、スペイン美術の長い歴史のなかで、とりわけ20世紀の美術において、美術に限らず思想や書といった「日本的なもの」が大きく影響を与えていることを丹念に論じていただいた。一般の観衆を対象に行われた講演だったため、その内容は概説的なものにならざるを得なかったものの、会場となった長崎県美術館にはそうしたスペインの20世紀美術が常設展示されており、その成果は大きなものであった。事実、美術館が行った参加者へのアンケートでも「こういう講演をもっと開催して欲しい」という好意的な評価を得ている。そもそも20世紀のスペイン美術史は専門とする研究者が日本国内にほとんどいないため、その紹介も遅れている。1950年代以降、独裁体制下のスペインは国際的な美術の潮流に歩調を合わせていく過程で、アントニオ・サウラやアントニ・タピエス、フェルナンド・ソベルといった芸術家がアンフォルメルの流れと歩調をあわせ、ヴェネツィア・ビエンナーレといった国際的な場でも評価されるようになっていく。しかし、彼らの興味の対象として書や禅といった「日本的なもの」が大きな位置を占め、「具体」や瀧口修造と密接な関係を結んでいたことはあまり知られていない。雑誌『墨美』や岡倉天心、谷崎潤一郎、鈴木大拙の著作が、彼らの前衛的な制作態度を背後から支える柱となったのだ。こうした流れは、「日本的なもの」の流入に浮世絵が中心的な役割を担った19世紀の「ジャポニスム」とは異なり、書や禅といった、絵画以外の分野に主たる関心が向かったという違いはある。しかし、パリを経由してその影響が伝えられ、しかも同時代美術として展開された点では共通しており、しかも彼らが「日本」に一方的に影響を受けたのではなく、同じ時代に同じ精神を共有していたのだという意味で、われわれ日本人にとっても、示唆に富む指摘であった。カバーニャス教授には、以上のように大きな成果となったふたつの講演の原稿を、日本語論文として発表していただくことを了承いただいた。前者の講演原稿はスペイ
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