鹿島美術研究 年報第25号別冊(2008)
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―487―ン・ラテンアメリカ美術史研究会の研究会誌に、後者は長崎県美術館の紀要に掲載される予定となっている。また、今回の滞在は、ここまで述べてきたような講演ばかりではなく、教授自身の今後の研究の礎となるものだった。カバーニャス教授は今回の滞在のテーマとして「日本三景」の表象研究を掲げている。このため、今回の来日の間、短い滞在期間を有効に利用しながら松島、天橋立、宮島の三箇所を訪れることになった。この研究は単に日本美術の一側面を研究対象とするものではなく、日本三景を描いた絵画やスペインの風景画を例にとり、ナショナル・アイデンティティの形成と美術の関係を比較、論じるものとなる。19世紀には日本でもスペインでも、同じような国民国家の形成過程で風景画の要請が高まっていった。その両者に共通するもの、あるいは相違点はどこにあるのか。今回の滞在中に行っていただいた講演と同じく、単なる直接的な影響関係の詮索を越えた、幅の広い比較研究となるだろう。スペインには研究に資するような日本側の資料が皆無に近く、今回の滞在中にそうした資料を収集できたこと、また、稲賀繁美氏や河合正朝氏といった当該分野の日本人研究者と意見交換の場をもてたこと、そして、実際に日本三景を訪れた経験は研究のうえでも非常に大きな収穫となったと、帰国に際してカバーニャス教授は今回の滞在の成果の大きさを語っている。研究は未だその端緒についたばかりで、その成果が実を結ぶまでしばらく時間がかかるかもしれないが、我々は研究の成果が実を結ぶ日を、その果実をともに味わう日を楽しみに待ちたい。

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