4 ギルランダイオの聖母子とフランドル絵画ギルランダイオの《聖母子》の中で、唯一フランドル絵画との関係が認められるのは、ロンドン、ナショナル・ギャラリーにある作例〔図10〕である。この《聖母子》は、当初マイナルディなどの周辺画家の手に帰されていたが、近年ではギルランダイオの1477年頃の真作とみなされている(注22)。そして手前の胸壁に幼児を立たせた聖母の図像は、現在カッセルの古典絵画館にあるファン・デル・フースの《授乳の聖母》〔図11〕に類似していることがザンダーの研究によって指摘された(注23)。このキャンバス画は、背景がかなり剥落しているが、水景や遠山、中景の蛇行する道や喬木、そして胸壁を覆うカーペットの縦縞文様などにロンドンの作例との共通点が看取できる。カッセルの《授乳の聖母》は、19世紀の前半にシエナで購入されたが、聖母の肩に錦糸で星型に刺繍されるなど、イタリア人による注文を推定させる聖母の特徴がある(注24)。ロンドンのナショナル・ギャラリーには、もう一点マイナルディに帰される同工異曲の《聖母子》(Inv.2502)があるが、そちらの方がよりフースの作例に近い。― 105 ―描いた小さな板絵、ブリュッヘのペトルス・クリストゥス(Pietro Cresci da Bruggia)の作品(注20)」の記録がある。この小品を、現在ベルリン国立絵画館にあるクリストゥスの《婦人の肖像》(Inv.532)と同一視する研究者は少なくない(注21)。この目録には、数点のフランドル、フランスの《聖母子》の記載があり、それらの中にプラド美術館の《聖母子》か、そのコピーが含まれていた可能性もないとはいえない。またギルランダイオが水景を描いた初期作として、メトロポリタン美術館の《幼児キリストを運ぶ聖クリストフォロス》〔図12〕が挙げられる。そこでは、脛まで水に浸った聖クリストフォロスが、左腕を腰に当てて振り向いた姿勢で肩に乗せた幼児キリストを見ている。この高さ2.8メートルに及ぶ1475年頃の壁画は、フィレンツェのミケロッツィ・ヴィラの礼拝堂の壁から切り取られたものという(注25)。ヴァザーリは「ポライウォーロ伝」で、フィレンツェのサン・ミニアート・フラ・レ・トッリ教会のファサードに描かれていた《聖クリストフォロス》の壁画について言及している(注26)。そのため当該の壁画も、アントーニオ・ポライウォーロ作のヴァリエーションとされていたが、近年ではその原作に基づくギルランダイオの若描きとみなされるようになった(注27)。このギルランダイオの壁画は、モデナのガレリア・エステンセにあるアルベルト・バウツの《幼児キリストを運ぶ聖クリストフォロス》〔図13〕を想起させる。バウツ
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