― 209 ―〈最後の審判〉における【関所】の作用 ―表現する時空の拡大―ヴレアRozavlea地区・大天使聖堂、シエウS,ieu地区・生神女誕生聖堂、ポイエニレ・イゼイPoienile-Izei地区・克肖パラスキヴァ聖堂、ボグダン・ヴォダBogdan-Voda˘地区・聖ニコラエ聖堂の各教会堂で〈最後の審判〉を観察した。どの作例においても〈最後の審判〉はプロナオス内壁に描かれ、東壁あるいは西壁を中心に、南北の壁面にも広がり、他の主題の絵画が描かれていることがあっても、プロナオスを占める主たる絵画は〈最後の審判〉といえる。ここでブデシュティ地区、ジョサニ聖ニコラエ聖堂で見学したイコン〈最後の審判〉について報告しておきたい。この教会堂にはプロナオス東壁面にも〈最後の審判〉が描かれているが、現存の状態では天使の群れを従え再臨するキリストとその下段の裁きを待つ人々の姿がわかる程度で、その下で展開されていたと予想される魂の精査の様子や地獄の光景はほとんど判別できない。この東壁に隣接する北壁に〈最後の審判〉のイコンが安置されていた〔図9、10〕。スラヴ語で銘文が書かれるこの〈最後の審判〉には、画面中央で繰り広げられる魂の精査の様子と、我々から見て画面左側に並ぶ裁きを待つ人々に挟まれて12段の【関所】が描かれている。最上部の銘文が【関所】を明示する。各【関所】では、白い人間の魂を挟んで天使と悪魔が対峙する上半身が描かれ、悪魔は片手に杖を持ち、もう片手に札を持っている。この札には今判別できている限りでは、【悪い行い】、【戦好き】、【あばずれ】、【守銭奴】、【殺人】、【子殺し】と罪状が書かれている〔図11〕(注14)。このイコンに関してはM. Porumbが、作者不明でガリツィア地方の様式であると述べているが、制作年代に関する言及はない(注15)。このイコンに現れる【関所】の形態は、報告者がこれまで見たことのある、イコンの〈最後の審判〉に現れる【関所】とは全く異なる。このイコンを見学できたことは、本調査での大きな収穫であると同時に、今後の研究における重要な課題となった。本調査によって得た知見でまず言及すべきは、【関所】と〈最後の審判〉の位置関係である。カリネシュティ・カイエニの例もイエウドの例も中心の垂直下部が通路になっているためか、従来であればデイシスの真下に描かれる魂の精査の部分が、我々から見て左下部に移動している。他方で右下部では断罪された者の懲罰、すなわち地獄の光景が広がる。両例とも、キリストが「最後の審判」を執行するにあたって座る椅子であるところのエティマシアが描かれないが、イエウドの例では、通常であればエティマシアの下から延びる手が突如、裁きを待つ修道士の群れと隠修士の群れの間
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