1 「二尊院縁起絵巻」の概要二尊院縁起絵巻は、二尊院の草創と以降の霊験譚、寺史を描いたもので、全二巻から成る(注5)。内容については、〔表1〕を参照されたい。奥書はなく、制作年代や絵師、詞書筆者については不明だが、箱蓋裏に貼付された紙をはじめ、『群書類従』や『大日本仏教全書』に収められる詞書写本の巻頭に、「外題後奈良院宸翰。初段二段者伏見院入道貞敦筆。自三段終迄称名院公条筆。画図者狩野法眼元信」とあることから、外題を後奈良天皇が染筆し、詞書の上巻第一・二段を伏見宮貞敦親王が、上巻― 258 ―㉔ 初期狩野派絵巻の研究―「二尊院縁起絵巻」を中心に―研 究 者:学習院大学大学院 人文科学研究科 博士後期課程 土 谷 真 紀はじめに室町後期、二代元信の時、狩野派は画壇において大きな躍進をみせる。自派の画風を整理・統一し、作画領域を広げ、幅広い顧客を獲得するという、職業画家として隙のない戦略は、以降四百年続く狩野派の基盤を築いた(注1)。特に作画領域は、父・正信の代には、水墨山水画、道釈人物画、肖像画、仏画などが中心であったが、元信に至って初めてやまと絵系画師の専門領域である絵巻や金碧画へ進出していく(注2)。従来から自派が得意とする「漢画」に加え、「やまと絵」のジャンルへ進出したことは、狩野派にとって大きな転機であったことは疑いない。初期狩野派による絵巻作例を扱う先行研究では、様式検討を中心に、各作例の制作背景や同時代の他派の絵巻へ与えた影響などが検討され、初期狩野派による絵巻群は、主に狩野元信が手がけたと判断される作例と、元信を筆頭とする工房の手になる作例の二種に大別されている(注3)。「釈迦堂縁起絵巻」(清凉寺蔵)と「酒伝童子絵巻」(サントリー美術館蔵)は、元信の個人様式を有し、一方、「二尊院縁起絵巻」や「北野天神縁起絵巻」(神奈川県立歴史博物館蔵)などは、元信の個人様式に学んだ流派様式を持つ作例とされる(注4)。先行研究によって、初期狩野派絵巻の特徴や意義についてその概観は掴めるものの、更なる検討が待たれるものも少なくない。本研究では、そのなかでも京都府・二尊院に所蔵される「二尊院縁起絵巻」を取り上げる。本絵巻は、解説や論考のなかで触れられることが多く、専論はない。本報告では、まず基礎的な検討からはじめ、画風や詞書の書風、内容構成の特徴を明らかにする。さらに本絵巻で特筆される図様について述べ、若干の私見を提示したい。
元のページ ../index.html#268