注⑴Maurice Denis, Le Ciel et l’arcadie, présenté et annoté par Jean-Paul Bouillon, Paris, Hermann, 1993; 稲賀繁美『絵画の東方―オリエンタリズムからジャポニスムへ』 名古屋大学出版会、1999年、345−398頁。⑵Maurice Denis, cat. exp., Paris, Orangerie des Tuileries, 1970, pp. 109−114.⑶Musée du Prieuré: symbolisme et nabis, Maurice Denis et son temps, Saint-Germain-en-Laye, Muséedépartemental du Prieuré, 1981. 以上の情報はモーリス・ドニ=プリウレ美術館のマリ・エル・カイディ氏にご教示いただいた。寄贈された素描や版画の中では、アモリー=デュヴァルの《母性》(紙・サンギーヌ)、カリエールの《夜明けの光》(石版画)、自画像2点を含むフェルカーデの素描3点などが注目に値する。⑷Ursula Perucchi-Petri, «Les Nabis et le Japon», The Society for the Study of Japonisme ed., Japonisme inart: An international Symposium, Tokyo, Kodansha International, 1980, p. 262. 浮世絵コレクションの詳細までは言及されていないが、ドニ旧蔵の歌川国芳と五湖亭貞景の3枚の図版が以下に掲載されている。Ursula Perucchi-Petri, «Japonisme in Bonnard’s work», Pierre Bonnard: ObservingNature, cat. exp., Canberra, National Gallery of Australia, 2003, pp. 132−135.― 309 ―て、ドニが提示した近代美術史の言説を参照しながら旧蔵コレクションを分析してみたとき、両者の分かちがたい共犯関係が浮き彫りになるのである。おわりに本稿ではドニの旧蔵作品の解明を試みた上で、ゴーガン作品を例に挙げて、その入手経緯と所蔵品の利用実態を分析してきた。4点のゴーガン作品の内、3点に関する購入の時期と経緯が判明しているという事実は積極的な蒐集活動を裏付けている。そして、ときに展覧会ならびに言説や作品制作と密接に結びつきながら、ドニが提唱する美術史的コンテクストに供する形で所蔵品は活用されていたことが見えてきた。しかしながら、ドニのコレクションについてはまだ不明な点も多く、全容の解明にはしばらく時間を要する。それが果たされた時には、画家と美術批評家としての活動にコレクターというもうひとつの側面を加えた、これまでとは異なるドニ像の構築が求められることになるだろう。決して散逸したわけではないものの、複数の遺族とモーリス・ドニ=プリウレ美術館を初めとした各地の美術館等に分散されて所蔵されている現状を顧みたとき、いわば旧蔵コレクションは公私の狭間のなかに留め置かれた状態にあると言える。こうした両義性は画家としてのドニにも当てはまるだろう。ナビ派を経て宗教画に傾倒していく展開は、モダニズムの美術史観では収まらないある種の落ち着きの悪さをもたらしてきた。このような中で、新たなドニ理解へのひとつの道筋として、コレクション研究は大きな可能性を秘めている。
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