2)啓蒙者の聖体礼儀:啓蒙者の聖体礼儀とは元来は洗礼志願者を対象とし、聖書の朗読が中心となる。幾つかの連祷の後、司祭は主祭壇上の福音書を取り上げ、イコノスタシスの北門、すなわちプロテシス側の門からナオスに出る。そして会衆の間を厳かに行進し、イコノスタシス中央の王門からアプシスに入る。この儀式は小聖入と呼ばれる。小聖入の後、聖書の朗読と説教が行われる。3)信徒の聖体礼儀:信徒の聖体礼儀は連祷と大聖入と呼ばれる行進儀礼によって始まる。大聖入とは聖祭品を小聖入と同じコースを辿ってアプシスに搬入する行進儀式である。大聖入の後、信仰宣言がなされ、聖体礼儀の核心たる聖祭品の聖変化と聖体拝領へと移る。― 316 ―ビザンティンの典礼はしばしば演劇的と評される。儀式の次第、舞台となる聖堂そのもの、司祭の一挙手一投足、そのいずれもが象徴性に満ちている。聖体礼儀は「奉献礼儀」「啓蒙者の聖体礼儀」「信徒の聖体礼儀」の3部から構成されるが、典礼儀式の進行とともに、プロテシスに配された聖母子像が各局面においてどのような役割を帯びていたのか、そして何ゆえここに聖母子像が配されたのか、その図像選択の必然性も明らかになるだろう。カバシラスによれば、聖体礼儀は次のような次第で執り行われる(注5)。1)奉献礼儀:奉献礼儀は聖体礼儀の開始を告げる儀式である。司祭はイコノスタシス(内陣障柵)によりナオス(会堂)と隔てられたプロテシスにおいて聖祭品(パンとワイン)を準備する。聖祭品の準備を終えると、司祭は主祭壇の前に立ち、啓蒙者の聖体礼儀が始まる。以上が聖体礼儀の大まかな流れである。一連の儀式の中でプロテシスは、■聖祭品を準備する場や■小聖入・大聖入といった行進儀式の起点となる等、聖体礼儀において重要な役割を帯びていたことが知れる。これら二つの機能を手掛かりにプロテシスに配された聖母子像の役割とその選択の必然性について考えてみよう。■ 聖祭品を準備する場としてのプロテシス中期ビザンティン以後の聖堂では、一般に聖母子像がアプシスに採用される。アプシス装飾が定型化しているのに対し、意外なことにプロテシスの図像選択は一定しない。例えばギリシア、カストリアのアギイ・アナルギリ聖堂(1180年代)はキリスト・インマヌイルを、キプロス、アシヌゥのパナギア・フォルビオティッサ聖堂(1105/06年)はヨアンニス・エレイモンなる聖人を描く。他方、カッパドキアのアプシスには、多くの場合、イザヤ書とエゼキエル書に依拠
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