鹿島美術研究 年報第27号別冊(2010)
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1.研究背景鎌倉時代以降、軍記物語や合戦史実を主題とした絵巻制作が盛んになり、そのなかには多くの武家装束が描かれてきた。こうした武家装束や甲冑、関連絵巻の先行研究としては、鈴木敬三氏に代表される有職故実や服飾史からみた研究や、山岸素夫氏に代表される遺品甲冑の実証的研究、宮次男氏の合戦絵巻の研究などが行われてきた(注1)。しかし絵巻に描かれた個別の武装表現や甲冑等の色彩に関するもの、またその色相関係についての研究は殆どみられない。論者はこれまでの研究で『平家物語』『源平盛衰記』などの軍記物語や「蒙古襲来絵巻」など合戦絵巻の武装表現に用いられた色彩とその取り合わせ(色相関係)に、時代や門閥による傾向がみられたことを示唆してきた(注2)。本研究ではこれらの研究手法を基盤とし、「後三年合戦絵巻」について検証し、意匠的特質を探る。2.研究目的「後三年合戦絵巻」は、永保3年(1083)から寛治元年(1087)に奥州で起こった後三年の役を主題としている。対象となる東京国立博物館蔵「後三年合戦絵巻」は重要文化財に指定されており、貞和3年(1347)の玄慧による序文が付された数少ない制作年の判明した資料の一つとして、現在上・中・下巻の3巻が伝わっている。各巻詞書筆者名、画工として飛騨守惟久の名が記載され、3巻ともに詞書の後、その内容の絵画描写が挿絵のように描かれるという構成である。また特に関東以北の地域に、詞書のないもの、紙の大きさが異なるもの、白描のものなど幾種類の模本・粉本とみられるものが多く伝わっている(注3)。3.研究方法個々の武装例について通し番号を付し、A. 威毛の色彩(威色目と色彩構成)、B. 鎧― 23 ―③ 「後三年合戦絵巻」の武装表現にみる色彩観研 究 者:九州産業大学 芸術学部 専任講師  佐 藤 佳 代本研究は東京国立博物館蔵重文「後三年合戦絵巻」(注4)に描かれた、特に大鎧を纏っている描写例を中心に、威色目や鎧直垂の色彩、それらの色と色とを取り合わせる意識において、どのような特徴が表れているのかを探る。そのほか、史実と絵巻制作時期にかなりの時間差があることから、描写装束の時代的特徴なども問題としたい。

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