鹿島美術研究 年報第27号別冊(2010)
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2.講堂の機能と安置仏⑴講堂と法会― 325 ―㉚ 古代の講堂に安置された仏像に関する研究研 究 者:東北大学大学院 文学研究科 博士課程後期  原   浩 史1.はじめに古代仏教寺院の所謂「七堂伽藍」において、仏像を安置するための堂宇は「金堂」と称された。金堂は、古くは舎利を奉安する塔とともに寺院の中枢部を形成し、のちに塔が回廊の外に建てられるようになると、寺院の最も重要な建物となる。仏像を祀ることで、金堂は伽藍の中心に位置することになったのである。しかし、周知の通り、仏像は金堂だけに安置されたわけではない。平安時代後期の『七大寺日記』や『七大寺巡礼私記』を見ると、講堂や食堂など、金堂以外の堂宇にも様々な仏像が安置されていることが分かる(注1)。本研究が扱うのは、こうした金堂以外の堂宇に安置された仏像、特に講堂に安置された仏像の問題である。金堂と異なり、講堂や食堂は仏像を安置するために建立されたわけではない。これらの堂宇に安置された仏像は、何故金堂ではなく、講堂や食堂に安置されたのだろうか。食堂に安置された尊像、特に聖僧像については、彫刻史・建築史・文献史学などの諸分野において、すでに多くの研究がある(注2)。食堂の聖僧像は、僧侶たちの理想像とされ、食堂で行われた斎食や布■において、衆僧の上首として供養されたことが明らかになっている。一方、講堂に置かれた仏像については、これまで十分に論じられてきたとは言い難い。その原因はおそらく、講堂という堂宇の性格や機能の曖昧さにある。講堂は食堂や僧坊などとともに「僧地」とされ(注3)、講堂と食堂はしばしば兼用されたとも言われる。しかし、その一方で、講堂には多くの仏像が安置される。しかも、講堂への仏像安置は、金堂と同様に自明のこととされ、これまでその理由が問題とされることは、ほとんどなかったのである。本報告では、まず古代の講堂の機能について概観する。そして、これをふまえた上で、史料から講堂に安置されたことが確実な仏像を例に、儀礼や尊格など、幾つかの観点から、その安置の理由を考察したい。講堂は、「法堂」「講法堂」の別名が示しているように、「法」を講じるための堂宇である。しかし、古代寺院における講堂が、具体的にどのように用いられていたのか

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