鹿島美術研究 年報第27号別冊(2010)
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4.研究成果4−1 色彩の特徴と色相関係大鎧武装描写は延べ259例あった。このうち単色の威色目が207例、紺裾濃威など2色以上の色彩で構成された威色目は41例である。また剥落等で威色が不明な例が11例あったことも述べておく(注8)。鎧直垂に関しては、色彩文柄判別ができたものが259例中212例、不明分が47例であった。― 24 ―直垂の特徴(文柄や色彩構成)を詳細に検証する。A.とB.の値をマンセル色相環〔図1〕の色票に照合し、その条件から威色目と鎧直垂の色相関係を対比・類似・近似の3系列に分類する(注5)。このデータを他の史料とも比較し、本絵巻の武装表現の特徴を抽出する。例えば上巻11紙に描かれた伴次郎助兼(生没年不詳)の装束〔図2〕をみると、詞書によれば源家重代の鎧「薄金」と称される大鎧を着用している(注6)。A. 描かれている大鎧の威色目は紺裾濃威であり、その色彩構成は白(10YR9/1)、浅葱(2.5B5/8)、縹(3PB4/7.5)、紺(5PB3/7)の4色である(注7)。割合からみると主に構成される色彩はB〜BPで青系といえる。B. 鎧直垂の特徴として、赤地に白丸文様がみえる。白丸文様は直垂の構成要素の菊綴であると考えられるため、直垂を構成する主な色彩は緋(7.5R4.5/11)で、赤系Rであるといえる。これらA. B. をマンセル色相環の色票に照合すると、この威色目と鎧直垂の色相関係は「対比」関係であると導き出されるのである。これらのなかで最も多く用いられた色彩は、赤系Rである。大鎧の威色では100例、鎧直垂では88例に赤系の色彩が用いられている。これらの赤には黄色味の赤(朱6R5.5/14など)から、黒味の赤(深緋7.5R3.5/7など)まで数種類あり、それら全てを含んだ数となっている。下巻22紙をみると、義家は緋威大鎧と赤地錦に金糸をふんだんに用いた鎧直垂を着ており、その権力までもが装束の色彩に現れているといえる〔図3〕。また左下方に控える家臣の緋威大鎧も赤味が濃い。緋威は絹糸を茜で染め、組糸にして威されたものである。染料の茜はたいへん高価であるにもかかわらず、何度も染め重ねていかなければ鮮やかで濃い緋色にはならない(注9)。対して、その横で薙刀を持ち裸足で腹巻を纏った郎党の威毛は、同じ赤系でも浅い緋色である。鎧直垂は紺色で、紺は比較的安価な染料である藍で染められている。藍は絹地には殆ど用いず、植物性の素材である綿や麻に多く用いられる。次に多い色彩例は茶系YR−Rで、威毛には35例、鎧直垂には36例みられた。茶には

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