― 354 ―造立され、その荘厳は盧舎那仏から釈■への菩■戒の伝授、釈■による盧舎那仏への供養、天人による持戒の讃嘆を表していると言える。また、金堂の内部空間は、上品戒受持者が見ることのできる蓮華蔵世界としても観念され、重層的な意味を有していたと思われる。それは戒律を受持し、その力によって護国を担う僧にとって、自らの持戒を証明・讃歎する「好相」であり、望まれる最上の有り様である。金堂はその理想の世界を表す場であったと考えられる。⑵薬師如来像と千手観音像現金堂造営時に薬師如来像と千手観音像が加えられたことについて、様々な問題が残されているが、ここでは両尊像の機能に注目し、盧舎那仏との関連を考察する。善珠著『本願薬師経鈔』には、冒頭に懺悔・受戒・帰三宝・八斎戒受持の表白・発願という次第が記されており、名畑崇氏は、同書を桓武朝・延暦期の国家的な薬師悔過・斎会のために書かれたものと指摘している。また、主眼が懺悔と持戒にあることから、当時の『薬師経』受容は、薬師の第五願「戒律の護持」など持戒の説への関心が中心だったと述べている(注25)。悔過とは懺悔・滅罪・持戒清浄を善因として祈願を行う儀礼であり、その点において薬師如来による護戒が重視されたと考えられている(注26)。その上で、『本願薬師経鈔』が以下の発願をしている点に注目したい。すなわち、懺悔・受戒の功徳を先帝の聖霊・現在聖朝に廻向して天下平安を祈り、また衆生に廻向して「疾く広大無上道を證し、先に荘厳鸞輿を用い、華蔵の宝刹に起ち、慈魂を縁起の性海に遊ばしめ、永く塵劫の罪を滅し、早く十身の果を證せん」とある(注27)。薬師如来に対する懺悔によって持戒清浄を期し、その功徳によって聖朝平安等を祈ると共に、最終的に「華蔵の宝刹(蓮華蔵世界)」に至り、さとりを得ることが目指されている。次に千手観音像については、宝鉢手の存在から伽梵達磨訳『千手千眼観世音菩■広大円満無礙大悲心陀羅尼経』に基づくとされる(注28)。同経は陀羅尼の功徳として、滅罪と菩■の階梯の向上を説いている(注29)。変化観音像の機能については以前論じたので詳述しないが、『華厳経』『梵網経』の説く菩■道の中で、変化観音による滅罪が期待され、種々の観音悔過が行われ、最終的に仏果を得ることが期されていたと考えられる(注30)。薬師如来像・千手観音像はともに悔過儀礼の対象とされる。悔過では懺悔・持戒の功徳を以て様々な祈願を行うが、最終的には盧舎那仏の蓮華蔵世界に至ることが願われていたと言える。時代は少し下るが、『三代実録』貞観17年(875)12月13日条では、
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