鹿島美術研究 年報第27号別冊(2010)
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1.薬師像の形式分類唐代の四川地域で制作された薬師像は、如来像を中心に分類すると、薬師像一躯の単独像、釈迦との二尊像、釈迦・阿弥陀との三尊像、釈迦・阿弥陀・弥勒との四尊像、十二神将像あるいは八大菩薩などの眷族を伴う群像とに分けられる。また、菩薩像との組み合わせをみると、地蔵菩薩、観音菩薩、文殊菩薩のような菩薩を伴い、二尊、三尊の形式で分けられる。― 361 ―㉝ 唐代中国四川地域の薬師信仰研究―他の尊像との関連を中心に―研 究 者:京都大学大学院 文学研究科 研修員  金   銀 児浄瑠璃世界の教主である薬師如来は、菩薩であった時、12の大願を発し、衆生の病苦を除き、安楽を与えるなどの現世利益をもたらすことを誓った。特に、重病に陥った者のためにこの如来像に対して『薬師経』を49遍読誦し、49灯を燃すことなどにより、病人の意識を回復させ、命を継続させることが可能になるとする続命法に基づき、薬師如来は盛んに信仰された。中国唐代の薬師信仰に関するこれまでの研究は、主に敦煌石窟の作例を扱った論考が中心になっており(注1)、本稿で取り上げる四川地域の薬師像に関する論文は殆どなく、胡文和氏による1984年の論文(注2)と同氏が1994年出版した書籍の中で著した小論があるのみであった(注3)。近年、広元(注4)・巴中(注5)などの川北地域に関する総録および論文が発表され、今まで詳しく知られていなかった四川地域の薬師像について、初唐から晩唐までの多様なタイプに関する詳細な情報が得られるようになった。本稿では、このような研究成果および新資料を整理し、現在の段階で語れる唐代四川地域の薬師像、ひいては薬師信仰について検討したい。まず、唐代四川地域で制作された薬師像を形式上の特徴に基づいて分類し、検討を行う(注6)。続いて、薬師像の題記から確認される「極楽浄土」の意味を『薬師経』の中で検討し、薬師像の造像の功徳について考察する。最後に、薬師・地蔵・観音像の組み合わせを見せる三尊像について検討を行い、他尊との関わりの中での薬師像の意味を考察したい。まず、単独像としては広元千仏崖第129号龕(開元初年)〔図1〕・512−20号龕(盛唐)・586号窟(盛唐)・第248号龕(盛唐〜中唐)〔図2〕(注7)、浦江県看灯山第41

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