鹿島美術研究 年報第27号別冊(2010)
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― 389 ―(明)・仇英(明)・文徴明(明)・沈南蘋(清)などで、比較的多数見られるのは趙子昂(7点)、王若水(4点)などである。当時は文人画の人気が高まりを見せていた時期でもあるが、ここにはこの鑑定会の嗜好や方針が反映されているものかと考えられる。したがって、記録の大部分は日本の書画で占められているが、その中での特徴や傾向に注目すると、まずは狩野派関連の作品の割合が非常に高いことを指摘できる。狩野派の作品でも特に出品回数が多いのが探幽・常信・安信といった近世前半期の画家の作品で、作者名にこれらの名を挙げるものを数えると(合作の場合なども1点と数える)、それぞれ234点・166点・119点に及ぶ。また、他に収録点数が多いのは木挽町狩野家の画家たちで、同家の祖である尚信(90点)、三代周信(養川院・32点)、八代栄信(伊川院・41点)といったところが目立つ。なお、これら近世期の作品に対して、それ以前の時代の正信(3点)、元信(16点)、永徳(5点)といった画家の作も、点数は比較的少ないものの出品されている。すると、ここに挙げた狩野派の作品を単純に合計しただけでも700点近くにのぼり、全体に占める割合は非常に大きいと言える。この点数の多さは他の画派と比較しても圧倒的であり、例えば土佐派の場合は江戸前期の光起で16点、室町期の光信が6点という数であり、住吉派の場合も江戸前期の具慶が20点、江戸中後期の広行が15点など比較的少数にとどまっている。その他、会合において作品が多く鑑定の対象となっている作者名を挙げてみると、英一蝶(65点)、雪舟(44点)、松花堂昭乗(30点)、円山応挙(28点)、久隅守景(23点)、尾形光琳(18点)といった名前が見られる。これらは、室町時代の雪舟を除けば概ね江戸前期から中期にかけての顔ぶれと言える。作品の成立時期という切り口から見ると、出品作品中で古い時代のものは平安・鎌倉期に及び、例えば三蹟(小野道風・藤原佐理・藤原行成)や源俊頼、藤原俊成などの古筆切や、藤原為家の自画讃の作などが出品されている。その一方で、逆に近い時代の作品も見られ、代表的なものは谷文晁(12点)や岸駒(7点)の作品で、他にも渡辺崋山や出品者にも名を連ねる佐竹永海・喜多武清の画が出品された例も1点ずつではあるが確認される。ここには、点数の上では近世前期の狩野派を中心としながらも、鑑定対象とされる作品は広範なジャンルにわたっていたことがうかがえると言えよう。そのことを象徴する一例が肉筆浮世絵の出品で、全体で30点程度ではあるが、画家の名を挙げると、宮川長春(14点)、菱川師宣(4点)、西川祐信(3点)らの名が見■■■■■■■■信(54点)、七代惟■■■■

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