1 研究の経緯MOA美術館では、2002〜3年に東京文化財研究所との共同調査により、尾形光琳の国宝「紅白梅図屏風」(以下、紅白梅図という)の技法、材料に関する科学調査を実施した。本研究の目的は、紅白梅図の材料と技法の解明を通して、現状の構図や見え方と異なる一面を浮かび上がらせ、本屏風の制作当時の作者の意図や試み、主題の解釈に重要な情報を得ることであった(注1)。第1次調査の成果は、2005年に中央公論美術出版社から『国宝紅白梅図屏風』を刊行した。城野誠治氏の業績は、蛍光撮影調査によって画面の全面に有機物質が塗布され、流水部分から有機色料が検出されたことである。高精細デジタル画像の調査では、金地の箔足と呼ばれる部分に箔の重なりが見えないと報告した(城野誠治「国宝紅白梅図屏風の画像制作について」)。― 34 ―④国宝・光琳筆「紅白梅図屏風」の技法・材料に関する光学的研究研 究 者:MOA美術館 副館長内 田 篤 呉鈴 田 滋 人下 山 進中 井 泉馬 場 秀 雄森 口 邦 彦室 瀬 和 美染織家吉備国際大学 教授東京理科大学 教授吉備国際大学 教授染織家漆芸家早川泰弘氏は、蛍光X線分析により流水部分から金、銀、銅は検出されず、背景の金色地から検出された金の強度は極めて小さく、背景の地と箔足部で金の強度に有意な差が認められない箇所が多いと報告した(早川泰弘「紅白梅図屏風の蛍光X線分析」)。三浦定俊氏は、透過X線調査によると水流の部分の文様や箔の重なりに相当する影は表れず、水流部分から金、銀、銅の金属元素が検出されなかったことから、早川氏の蛍光X線分析の結果を裏付けるものと考察した(三浦定俊「紅白梅図の透過X線分析」)。2004年2月14日、MOA美術館を会場として美術史学会、東京文化財研究所、MOA美術館共催のシンポジウムを開催し、特に背景の金箔押しと考えられていた金地に関する問題点を指摘した。その結果は広く報道されて、現在、背景の金地は金箔でないこと、流水部は型であるという見解が流布している。しかしながら、本当は金箔であ
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