3−2.耐久性の強化石の絵画のもう一つの特性として、耐久性という性質に着目したい。先に引用した絵画技法論、第24章においては、地塗りの工程に関する説明の後、こうした準備を丁寧にしたならば、石の絵画は永久にもちこたえるようになると記されている(注24)。また、やはり『芸術家列伝』に収録された建築技法論を参照するならば、石に描かれた絵画、とくに石板に描かれた油絵は、他のどんなものの上に描かれた場合よりもずっと長く保存に耐えるという記述が見出される(注25)。― 454 ―石の絵画が永久にもつと考えられたのは、石という素材自体に変化が少なく、堅牢であるということが何より理由であろう。だがそればかりでなく、絵画の耐久性は地塗りの工程に大きく左右される。修復家のニコラウスによれば、地塗りが不適切であると、描画層の支持体からの分離、地塗りの裏映り、布地の劣化、バクテリアやカビの発生を招く原因となる(注26)。つまり地塗りの工程が複雑であるほど、絵画に損害を与える要因は増すのである。そうであるならば、石を支持体とする技法は劣化要因を招くリスクが比較的少ない方法であるといえるだろう。前述の通り、石に油彩で描く場合に必要な地塗りはインプリミトゥーラのみであり、板絵やカンヴァス画と比べてより少ない工程で地塗りを準備することができる。すなわち石は地塗りを何層も重ねる必要がないため、支持体に対する描画層の密着度が高く、それゆえ比較的損傷を受けにくい傾向にある。セバスティアーノの石の絵画は、実際のところ、制作当初はその表現や芸術性よりもむしろ、保存上のメリットが評価されていた。ヴァザーリの『芸術家列伝』におけるセバスティアーノの石の絵画に関する言及においては、セバスティアーノが発見した石の上から色をつける方法は、火や木食い虫の害から免れるので、絵画は永遠の命をもつように思われる、そのためこの方法は人々の間でたいへんに評判がよかったと明記されている(注27)。また、先に触れたソランツォからベンボに宛てた1530年付けの書簡にも、ヴァザーリと同様の評価が見出される。すなわち、「(大理石に油彩で描くという)その方法を用いれば、絵画をほとんど永遠にもたせることができるだろう。なぜなら顔料が乾くやいなや、ほとんど石化するがごとく大理石に定着するからだ。セバスティアーノはあらゆる方法を試した。この方法による絵画は耐久性がある」(注28)。石の種類が大理石とされているのはソランツォの誤認か、あるいは現存しない作品に言及している可能性もあるが、いずれにしても、石の絵画が耐久性において優れているということが強調されている。以上のことから、石の絵画の利点が、石という素材の堅牢性と技法の簡便さに由来
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