― 37 ―たことが分かる。尚、断切は、特殊なカーボンを塗布したグラシンを箔打ち紙に用いて、機械で箔打ちを行って効率的に量産したものである。⑵金箔の科学調査科学調査は、中井泉氏が、①デジタル顕微鏡観察、②粉末X線回折分析、③蛍光X線分析を実施した。①デジタル顕微鏡観察デジタル顕微鏡(KEYENCE VHX−200)は、25倍〜1000倍率の性能がある。対照試料として、金泥画の俵屋宗達筆「鹿下絵新古今集和歌巻断簡」(MOA美術館、以下、鹿下絵という)、今井金箔製の金泥(「純金消粉 五毛色」)と金箔(「純金箔 縁付 五毛色」)を採用し、その比較検討を行った。白梅図の金地部分〔図2〕をデジタル顕微鏡1000倍で観察すると、金は紙の繊維に絡み付くように一様な光沢を持った滑らかな平面が観察される。一方、鹿下絵の脚部〔図3〕は、粗い粒子が分散している。金泥は、明らかに粒子が見えるが、その形状は球状でなく板状であり、金泥が金箔を磨り潰したものであることが確認できる。比較のために市販の金泥と金箔(縁付)をデジタル顕微鏡で観察すると、金泥は粒子を確認することができ〔図4〕、金箔は平滑な光沢面で〔図5〕、金泥と金箔の相違を確認できる。紅白梅図の流水部は、黒色と茶色の色料で描かれているが、さらに水波のような銀色に光る部分があり、これを「銀色」と呼ぶ。銀色箇所では、繊維に絡みつくような膜状の物質も見られ、金地の観察結果と類似している。また黒色、茶色、銀色の3箇所全てで光沢を持つ粒子(「光沢粒子」と呼ぶ)の存在を確認した。特に箔足のような模様の箇所(「箔足様部分」と呼ぶ)は、黒色物質の密度が高く、膜状に見える部分もあり、さらに光沢粒子が大きく数も多い。後述するが、蛍光X線分析で流水部の全てに銀Agの存在を確認したため、中井泉氏は光沢粒子を銀化合物と推測している。しかし、本紙が「まにあい紙」であれば、泥土が混入されているため紙に起因する物質の可能性もある。②蛍光X線分析ポータブル蛍光X線分析装置(OURSTEX 100FA−V)は、㈱OURSTEXと東京理科大学の共同開発した装置である。本装置は、アルミニウムやケイ素といった軽元素の分析に適した白色X線励起モードと、重元素の分析に適した単色X線励起モードの2種類のモードに使い分けることができ、同種の可搬型装置としては世界最高感度を有
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