鹿島美術研究 年報第27号別冊(2010)
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― 487 ―12)。【形状】丈の高い垂髻。髪すべて毛筋彫り。天冠台は紐二条に花弁形を配し、正面と両耳上に花飾りをあらわす。天冠台正面では永明院像と同じ位置で同様に髪束を絡める。耳朶環状貫通。三道。二臂。顔はやや右に傾ける。左手は左膝外側に垂下、右手は膝の上で屈臂し全指を軽く握って右頬に添える。左足は趺坐、右足は膝をやや外側に傾けて立て、両足裏を合わせる。覆肩衣、袈裟、裙を着ける。宝冠・冠繒・胸飾をつける。【品質構造】檜。頭体幹部は耳後ろを通る線で前後二材製。髻別材製。後頭部材の髻下部に別材をあてる。割首。左体側部は肩から地付きに至る手首まで一材製。左手首先を矧ぐ。右体側部は肩から前膊後側を含んで地付きまで一材製。立てた右脚の脛半ば以下と左足に横一材を矧ぎ、その上に右膝部(脛半ばより上を含む)と右前膊前側までを含んだ一材を乗せる。立て膝外側の覆肩衣の垂下部下端に別材矧ぐ。右手首先を矧ぐ。右前膊部は別材で作り袖部に差し込む。表面は肉身部泥地漆箔。衣部は布貼り、白下地、金泥塗り。切金と緑青による盛り上げ彩色で以下の文様をあらわす。覆肩衣表の内区は切金で七宝繋ぎ文を地文に蓮華唐草の丸文を散らす。周縁部は菊花文、界に太線・細線各一条、外縁に細線一条をいずれも盛り上げ彩色であらわす。袈裟表条葉部は盛り上げ彩色の雲唐草文、田相部は切金の雷文繋ぎ、界は盛り上げ彩色で太線・細線各一条。裙表内区は箔押しで花丸文、周縁部盛り上げ彩色(詳細不明)、界は太線・細線各一条。宝冠・冠繒・胸飾は銅製。【保存状態】白毫亡失。髻、肉身部漆箔、両手首先、左足親指、銅製金具、以上後補。⑤愛知・実相寺 如意輪観音菩■坐像〔図5〕本像に銘記はないが、作風から性慶作品とみられているのでここに紹介する(注像高54.8cm(1尺8寸)、髪際高37.1cm(1尺2寸2分)(注13)。寄木造り。漆箔、金泥塗り、切金、玉眼。以上、作品の概要をまとめた。性慶は元亨四年から貞和二年までの約二十年にわたって作風を追うことができるが、どの作品も端正な顔立ちと均整のとれた形姿が特徴で、特に志那神社像は頭体ともに奥行きがかなり深く、充実した肉どりを見せる。すでに指摘されているように、体躯のバランス、着衣形式(右胸下覆肩衣のたるみ、両脚部袈裟の折り返し)、丸みをもったやわらかい衣文線とその処理、緩やかなカーブを描く眉や目鼻立ち、薄くこじんまりとした唇、顔の側面観などがよく共通するのを追認できるが、さらには天冠台下、こめかみから耳上にかけての髪束の彫成、耳のつ

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