― 40 ―ので、現時点では流水部に銀がどのような状態で存在していたかは不明である。④ラマン分光分析ポータブルラマン分光分析装置は、B&W TEK Inc.製で、物質への光照射により分子や原子団の構造・状態を探ることができるため、X線では分析不可能な炭素や有機物の分析が可能である。白梅図の枝部分からは、カーボンブラックのラマンスペクトルが検出され、所謂、墨であることが確認された。流水の黒色箇所からは、カーボンブラックは検出されなかったため、枝の黒色顔料(カーボンブラック)と流水の黒色箇所とは別の物質である可能性もある。⑶有機色料の調査有機色料については、下山進氏が「可視−近赤外反射スペクトル非破壊分析法」を実施した。測定装置は、Ocean Optics社製R400−7−VIS−NIR二分岐型光ファイバー、USB2000−VIS−NIRマルチチャンネル型分光器からなる光ファイバー接続簡易携帯型分光器を使用し、流水部の黒色の色料の材質特定を試みた。標準試料として、カーボンブラック、青墨、藍を使用し、紅白梅図の流水部とのスペクトルを対比した。カーボンブラック(試料Ⅰ)は、炭素微粉末が練り込まれたゴム板を使用した。青墨(試料Ⅱ)は、「周氏珍蔵 康煕乙卯年製」と印刻された青墨を硯で磨って和紙に書いた書体を使用した。藍(試料Ⅲ)は、浮世絵版画に用いられた試料を使用した。試料ⅠⅡⅢの測定結果を〔図12〕に表した。試料Ⅰから得られた可視−近赤外反射スペクトルは、可視光領域(400−700nm)に反射光はみられず、近赤外領域に反射光スペクトルは現れていない。試料Ⅱは、400−500nmの領域と600nm以降にわずかなピークがみられるが、近赤外領域に反射光スペクトルは現れていない。試料Ⅲは、640nmからS字型に反射率が急激に高まり、近赤外領域全般に亘り高い反射率を示している。紅白梅図〔図13〕は、流水部4箇所(X1,X2,Y1,Y2)の測定を行ったが、いずれも近赤外領域に反射光スペクトルは現れていない。標準試料ⅠⅡⅢと紅白梅図X1,X2,Y1,Y2の可視−近赤外反射スペクトルを比較すると、紅白梅図は試料Ⅰカーボンブラックのスペクトル・パターンに近似しているが、試料Ⅱ青墨、試料Ⅲ藍とスペクトル・パターンとは一致しない。以上の結果から考察すると、紅白梅図に藍の存在は認められない。青墨の可能性は、
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