― 41 ―比較試料が1点のみのため、複数の青墨を標準試料として比較検討する必要がある。⑷型の調査型の使用に関しては、伝統工芸の視点から重要無形文化財保持者(人間国宝)である森口邦彦氏、鈴田滋人氏、室瀬和美氏に、また絵画技法から日本画家の中野嘉之氏に流水部の技法調査を依頼した。森口氏は、染織家としての立場から次の意見を述べる。流水の筆遣いは、凄い速さで描いているので、型紙を使っているとは考えられない。黒色の流水部分は、墨地に銀色のせせらぎとなっていたのではないかと推測する。流水部分が鼠地、あるいは藍鼠地に銀色で表現されていれば、画面の中央に奥行きが生まれ、梅樹が手前に見え、紅梅と白梅の間に空気感が表現できる。現状は、流水部が黒茶色に見えるので、金地と馴染んで平面的になっている。遠近感から考えると、流水部分は銀色であったと想像する。制作方法は、はじめに縁屋で紙を貼り、乾燥後にカリヤスか金茶色の染料で本紙を染め、流水の輪郭を焼墨で描いて、箔屋で金箔を貼る。その後、たっぷりした筆で、撥水性と防水性のある材料で流水を描く。縁蓋を流水の輪郭に当て、墨を塗り込む。流水を描く防染剤は不明だが、型ではこのような流麗な線を描くことができない。鈴田滋人氏は、流水のエッジの部分がシャープに表現されているので、型を使用した可能性があると指摘する。但し、紙型を用いた場合は、型を置き、刷毛で糊を摺り込むと、エッジは綺麗に出るが、溜まりの出る部分が出る、またツリの修正が必要である。そのために考えられる方法は、エッジが非常に鋭く現れているので、マスキングの方法しかないが、マスキング材は不明である。復元模造を試みた際、礬水を引いた紙は流水を滑らかな線で描けるが、綺麗なエッジが出ない。その意味で、銀箔か礬水を強く引いた後での描線と推測する。実際に、普通の和紙に呉汁で描いて墨を乗せると、白い線は出るが、滲んだ線となって綺麗なエッジは出ない。礬水を引いて呉汁で描くと、全く出ない。森口氏、鈴田氏、室瀬氏が協議した結果、制作技法については次の通り考察した。はじめに本紙を黄色系統の色料(キハダ、ウコン、カリヤス)で染める。次に金地は、礬水を引いてから金箔を置いた可能性がある。その上に礬水を引く場合もある。金地と流水の境界の輪郭線は、縁蓋(型地紙)を用いた可能性が高い。そして、流水は防染剤で描いたものと考えられる。流水は、一気に描いた勢いがあり、型では表現できない。線に伸びがあり、カスレがない。防染剤は何を用いたか不明だが、銀地の
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