鹿島美術研究 年報第27号別冊(2010)
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第2次科学調査では、デジタル顕微鏡観察、粉末X線回折測定、蛍光X線分析を実施した。その結果は、金地は金泥でなく、金箔と判断する。金地以外の分析では、白梅の胡粉は牡蠣の貝殻、緑色顔料は緑青を主体とした混合顔料、流水の黒色は染料か墨であることが判明した。流水部には金が存在せず、流水全体に銀が存在し、硫化銀の可能性が示された。流水部の技法に関しては、「銀箔地硫黄酸化・燻蒸説」も復活したので、「尾形光琳覚書帖」(重要文化財・尾形光琳関係資料)記載の「金の色付」の復元的研究を中川衛氏(金工家・重要無形文化財保持者)と実施する予定である。第2次調査は、第1次の反省を踏まえ、科学調査に加えて美術史家、伝統工芸の技術者、文化財修復技術者の協力を仰いだ。本調査を通して、文化財の研究は自然科学のみのデータに頼るのではなく、日本の画家や工芸家が永い歴史と伝統の中で蓄積してきた技術や経験が極めて重要であり、学際的な調査の重要性を認識するものである。― 42 ―【発表内容】国宝「紅白梅図屏風」科学調査に関する研究会 於MOA美術館「金箔金泥について」 「可視−近赤外反射スペクトル非破壊分析法による調査結果」落ちたところが黄色に見えるので、可能性として密陀油などが考えられる。疑問点としては、①流水部分が、何故に金茶色に見えるか。紙質は金属的でない。②流水の銀色部分が銀箔であるならば、他の部分が何故に抜け落ちているか。③中井氏の調査で、黒色の流水部分に銀が検出されるならば、硫化銀と墨とはどのような関係になるか。中野嘉之氏の見解は、日本画の立場から観察して、流水部は筆で描いたもので、型の使用はない。おわりに最後に、第2次調査に当り、多くの方々のご協力、ご支援をいただいたことに感謝申し上げたい。尚、本報告書は、2010年1月24日にMOA美術館において開催した「国宝・紅白梅図屏風科学調査に関する研究会」における発表内容と下記の報告書に基づくものである。馬場 秀雄 吉備国際大学教授

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