3.展覧会での評価 ―1894年、1895年この7枚は、表現の違いからも推察されるように、三段階に分けて制作された。「死」には1893−94年、「目覚め」には1914−15年、「復活」には1917−18年という年記がある。― 541 ―「我らが最愛の娘ガブリエルに捧ぐ」という書き込みが入れられている。天秤が転がっていることから「正義」の擬人像であることが分かる。右パネルの画面上部には、炎の間からブリュッセルの最高裁判所のドームが垣間見える〔図3〕。「目覚め」は、アルプスを髣髴させる雪山を背景に、死者達が蘇るところを描いたものだ〔図4〕。火による浄化の後、雪と氷に閉ざされていた世界が神の恩寵によって息を吹き返す。「正義」と「信仰」に続いて目覚めた者達が、画面右奥から昇る朝日の中、神と人間の和解を象徴するオリーブの小枝をくわえて飛来した白い鳩を喜びと共に迎えている。 それ以外の者は、未だまどろみの中にいるか、目覚めの喜びを互いに分かち合っている。「復活」に描かれているのは、花咲き乱れる田園風景を蘇った人間達が埋め尽くす光景である〔図5〕。中央パネルでは、人間達を祝福するキリストが天使と共に天上におり、左右のパネルでは、「信仰」と「正義」が、それぞれ花飾りを纏う少年達を従えて天を仰いでいる。前景には子どもや母子の姿が数多く見られ、世界の再生を強く印象づけている。背景には二重の虹が架かっている。虹は、大洪水の後、神が人類との契約の証として架けたそれと同じ意味を持つと考えられる。この作品が示す内容は、同時代のブリュッセル(最高裁判所が暗示している)で、人間達が宗教的・道徳的堕落ゆえに(「信仰」と「正義」を「殺した」のは人間達だと考えるのが自然である)神によって罰せられ、その後、神の恩寵により蘇った、ということになるだろう。そこには言うまでもなく、旧約聖書における神の怒りにまつわるエピソード(大洪水、ソドムとゴモラの滅亡等)や、最後の審判のイメージが重ねられている。様式的には、「死」が最も緻密に描かれており、色彩はほぼ赤褐色を基調とするモノクロームである。一方「復活」では観念的な固有色が使われており、また自然な空間を感じさせる合理的な明暗表現がないこともあって、人物と風景は完全に分離している。また緻密な表現と簡略化された表現による人物像が混在しており、後者は、画面の中でコラージュのような違和感を生み出している。中央の「目覚め」は、表現の緻密さにおいても色調においても「死」と「復活」の中間に位置している。そして「目覚め」と「復活」の中央パネルの左下隅には、それぞれ、年記と共に
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