― 573 ―② 「日仏美術学会:フランス17世紀の美術と文学」グレコの秀品のうちの1点として貴重である。しかしながら、倉敷にもたらされて以降国外で展示されたことが全くないため、欧米のエル・グレコ研究者の中で、この作品を実見した上で議論している者は稀である。その点からも、今回ゴメス氏をはじめ、1986年の日本でのエル・グレコ展に関わられた越川氏ら、フォーラムの参加者、大原美術館の各氏と共に、作品を前にしてその様式や図像の特徴に関し、詳細にわたる議論が持てたことは、大変意義深かったと言えるであろう。なお、ゴメス氏は、ホセ・アルバレス・ロペラの急逝によって中断したイスパニア美術財団によるエル・グレコのカタログ・レゾネ出版プロジェクトの編纂執筆を引き継いでいる。したがって、今回の倉敷での作品実見から得られた考察は、いずれ出版されるレゾネの続冊において、彼女によって公刊されるものと期待される。このように複数の、しかも海外からの招聘者を含む顔ぶれによる、学術的な内容に関するフォーラムの開催は、長崎県美術館としては初の開催であったが、数多くの聴衆が詰めかけ、アンケートでも満足の声が高かった。優れた作品を広く人々の鑑賞に供するだけでなく、それを機に専門的な研究成果を還元、そして国際的な学術交流の機会を持てたことは、当館にとっても実施する意義の大変高い企画であったと考えている。また、このフォーラムは5月5日付の長崎新聞文化欄、そして同月19日付の朝日新聞夕刊(執筆・高階秀爾氏)において取り上げられるなど、長崎のみならず全国的に反響を呼び、その意義を高く評価されたことも付記しておく。ゴメス氏、大高氏、越川氏、及び川瀬による発表の内容は、2010年度の長崎県美術館研究紀要(第4号)において公刊の予定である。期 間:2010年6月7日、9日場 所:日本、日仏会館報 告 者:日仏美術学会 常任委員 木 村 三 郎一般講演「Europe des nations, Europe de l’Esprit (国家のヨーロッパ、精神のヨーロッパ)」テーマは、戦争と平和に明け暮れてきたヨーロッパの歴史を、古代を視野に入れながら、現代の政治のあり方にまで目配りし、「文芸共和国」の意味するところを論じ
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