鹿島美術研究 年報第27号別冊(2010)
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― 579 ―④ 「日韓美学研究会・東方美学研究会 合同国際美術シンポジウム」都市の「近い過去」をどのように扱うのかというやっかいな問いを投げかけるものでもあった。以上のように、両日のシンポジウムの発表は、多様な視点と多様な問題系をはらむものであったが、そこには自ずから「近代の見直し」という共通の問題意識が浮かび上がる結果となったように思う。すなわち、都市計画の実践においては、19世紀以降の近代国家建設の過程で、あるいは戦後の経済復興の波のなかで、強力な経済性・合理性追求の圧力によって失われたもの、失われつつあるものへの危機感に基づく、新たなパラダイムの確立が課題となる。一方、歴史的考察においても、近代が捨象してきたもの、あるいは自明としてきたものを、新たに問題化することが必要となろう。発表後の討議においては、伝統技術の保存や指定制度の効果といった実践的問題から、歴史の読み直しにおけるイデオロギーとの関連の問題まで、幅広い内容の質疑が活発に行なわれた。とりわけ、今回のシンポジウムの成果として強調すべきは、日伊それぞれで展開してきた都市に関する実践的・学術的研究の成果が、双方の代表的な論者たちによって、ひとつの議論の場で互いに交換されたことであろう。各発表の詳細は、イタリア語の報告書として、来年中にはボローニャ大学から刊行される予定である。このシンポジウムをきっかけとして、今後さらに個別的トピックに関する日伊の連携研究企画が生まれてくることも十分に期待できる。なお、2日間にわたるシンポジウムは、事前の広報の成果もあり、建築史・都市史・美学・美術史など様々な領域に関心を持つ聴衆が多数参加し、150名を収容する中央棟第一講義室が両日ともほぼ満員となった。シンポジウム翌日(4月12日)に行なわれた川越へのエクスカーションでは、町並みの見学に加えて、川越市博物館のご好意により非公開の川越城本丸御殿の保存修理現場を見学することができ、イタリア人参加者たちが日本の伝統的保存技術について熱心に観察・質問をする姿が印象的であった。翌4月13日は、上野氏・野口氏・赤松加寿江氏らの案内により鎌倉へのエクスカーションが行なわれ、禅宗寺院等を訪問することとなった。期   間:2010年4月3日場   所:日本、広島大学報 告 者:広島大学大学院 総合科学研究科 教授  青 木 孝 夫

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