鹿島美術研究 年報第27号別冊(2010)
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― 585 ―この度の招聘で、レアリズム研究の成果は、東京(早稲田大学)で、講演会「ギュスターヴ・クールベ−Living with Courbet: Fifty years of my life as an Art Historian」、フェミニズム研究の成果は、京都(京都工芸繊維大学)で、講演会「ルイーズ・ブルジョワ−OLD Age style: Late Louise Bourgeois」として、それぞれご披露頂いた。京都では約150名、東京では約250名の美術史を中心とする研究者、学生、一般聴衆が拝聴し、活発な質疑応答が交わされた。報告者・永井は、2007年『フランス近代美術史の現在―ニュー・アート・ヒストリー以後の視座から』(編著、三元社)を刊行し、20世紀の初頭以来、フランス近代美術史研究に関する主流となってきた形式主義を乗り越えるべく、1970〜80年代以降、登場してきたニュー・アート・ヒストリー以後の新しい方法論を提案する試みを全国のフランス近代美術史研究者とともに実施し、新しいフランス近代美術史研究の可能性を探っており、招聘中、博士にセザンヌに関する政治学研究の可能性に関して、ご指導、ご教示を頂いた。報告者・坂上は早くから社会史研究とフェミニズム研究に注目、招聘予定のノックリン博士の代表的著作『絵画の政治学』(彩樹社、1996年)等を翻訳し、日本における、最初のフランス美術社会史研究の成果、『夢と光の画家―モデルニテ再考』(スカイドア、2001年)を出版しており、同じく博士との交流によって、特にフェミニズム研究の可能性に関して指導を仰いだ。京都滞在中は、桂離宮、竜安寺、金閣寺、東寺、二条城、時代祭りなどにお連れし、特に、日本の伝統文化に関して理解を深めて頂いた。東京滞在中、国立西洋美術館等で、日本の西洋美術を調査して頂いた他、東京国際フォーラム、銀座通りの新しい建築(ティファニー、カルティエなど)、汐留のカレッタ汐留、新宿都庁、代々木オリンピック競技場、表参道の建築(表参道ヒルズ、ディオール、トッズ、プラダビルなど)、六本木ミッドタウンなどにお連れし、特に、現代日本が誇る最先端の建築技術を中心とする、日本文化のもう一つの側面もご理解頂いた。この度の博士の来日は、美術史研究者が長らく待望してきたもので、日米研究者交流の大変貴重で充実した場が実現された。実に多くの日本人が恩恵を受け得る学際性、公益性の高い企画になったと共に、日本文化をご紹介しご理解頂いたことで、今後の日米交流の一助にもなったと確信する。

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