4.「戦時」イメージの二つの顔さて、この時期の「戦時」イメージを眺めてみると、つぎの二つの特徴を抽出する4−1.絵空事性まず第一に、その「絵空事」性である。これは、戦場での出来事があたかも舞台上― 61 ―オリンピックの代表選手に向けられるものとあまり変わらないように思われる。これら「戦時」イメージは、書籍、雑誌、紙芝居、絵葉書、ポスター、画集といった複製メディアを通じて■間に流布していった。これら大衆視覚メディアにおける「戦時」イメージの創出は、洋画や日本画を生業とする人々や出版文化に携わる人々(挿絵画家、デザイナー、写真家等)によって担われていた。これをかれらの描き手としての倫理の問題と断じるのは簡単なことである。しかし、「戦時」イメージの氾濫を個人の問題に還元せず、この時代の社会的事件として捉えていく方がより生産的に思われる。そう考えることではじめて、この時期の文化と戦後文化とをつなぐ通路が見えてくるのではないだろうか。では、この時期の「戦時」イメージは具体的にはどのような特徴を備えたものだったのだろうか。次章ではそれを検討したい。ことができる。の出来事であるかのように可視化される、そういうあり方のことを指す。たとえば《満洲事変記念絵葉書集》に収められたイメージの中にはそのようなものの典型を見ることができる。これは、『少年倶楽部』1932年3月号に添付された10枚1組の絵葉書セットである。最新兵器類のメカニカルな魅力を描いたり、どこかロマン主義的なモチーフを扱ったりしたこれらの作品は、「戦場の事実」を伝えるものでも「戦意高揚」を目指すものでもなく、いわば絵物語の延長線上にこの戦争を位置づけたものといえる。事実、原画を描いた鈴木御水はすでに1929年から『少年倶楽部』で活躍していた人気挿絵画家であった。《雪原の鉄道線路を護る月下の歩哨》〔図1〕では鉄路の警備に付く兵卒が防人のように哀愁たっぷりに描かれているし、《南嶺で奮戦する倉本少佐》〔図2〕では弾丸を受けて弓なりにのけぞる士官の姿が劇的に様式化されて描かれている。後者は明らかに日清戦争の英雄図として流通していた喇叭卒の図様をもとにしており、こういった英雄たちが既存の様式にはめ込まれて消費されていた様子をうかがわせる。これらのイメージは、かなり深刻な国際社会の現実を題材にとりながら、「絵空事」なるがゆ
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