鹿島美術研究 年報第28号別冊(2011)
103/620

⑶ J. C. Anderson, P. Canart and Ch. Walter, The Barberini Psalter: Codex Vaticanus Barberinianus graecus 372, New York, 1989 (Belser Colour Microfiche Editions: Manuscripts from the Biblioteca Apostolica Vaticana, Byzantine Manuscripts, 1).⑸ H. Kessler, “The Psalter,” G. Vikan (ed.), Illuminated Greek Manuscripts from American Collections. An ⑹ 本稿で論じる3写本以外に同章句に挿絵を施している余白詩篇は『パントクラトール詩篇』(Athos, Pantocrator Monastery, Cod. 61)があり、108:2に「ゲツセマネの祈り」、108:8に「首を吊るユダとマティア」を描く。S. Dufrenne, Tableaux synoptiques de 15 Psautiers medievaux à illustrations integrales issues du texte, Paris, 1978, Ps. 108.⑺ 銘文は注⑴ 本稿で扱う写本本文はギリシア語の七⑻ 銘文は⑵ S. Der Nersessian, L’illustration des psautiers grecs du moyen âge II: Londres, add. 19.352, Paris, 1970; Ch. Barber (ed.), Theodore Psalter: Electronic facsimile, British Library, 2004.⑷ M. B. Exhibition in Honor of Kurt Weitzmann, Princeton, 1973, p. 32.1977; K. Corrigan, Visual Polemics in the Ninth-Century Byzantine Psalters, Cambridge, 1992. ― 92 ―がらも、対応する本文を移し、レイアウトとリンクマークを調整することによって、『テオドロス詩篇』が行ったことは以下のようにまとめられる。まず「(持ち上げる)」から派生する諸単語を鍵に、「昇天」を107:6から107:8に移動させた。『クルドフ詩篇』においては108篇前半に漫然と対応していた「ゲツセマネの祈り」は、『バルベリーニ詩篇』が行ったように意味内容による共通性をもって107:13に移した。これらの操作によって二つの図像はf.149の上下に配され、オリーブ山というトポスが視覚的に示されることになった。死を目前にオリーブ山に上って祈りを捧げたキリストと、死に勝利してオリーブ山から天に昇るキリスト。本文は上から下へ、左から右へと進行するが、挿絵が表す物語の時間は下から上へ進行する。オリーブ山の祈りから、天に上げられるキリストへ視線を移した後、頁をめくると同じ位置に、f.150の「ユダとマティア」が描かれる。この図像はマティアによる交代が強調される本文にのみ結び付けられており、「昇天」に続く使徒言行録のエピソードが示される。つまりここでは短いサイクルではあるものの、テキストコラムの中では本文である旧約の詩篇が、余白の中では挿絵によって使徒言行録の物語が、並行して語られているのである。祈るキリスト(銘文が剝落しているため、後半は不明)」。■■■■■■■■十人訳であるため、邦訳聖書が依拠するヘブライ語版とは詩篇番号がひとつずれる場合がある。以降引用するテキストは、七十人訳に基づく試訳である。()「ユダの心に訪れる悪魔」。「オリーブ山で

元のページ  ../index.html#103

このブックを見る