― 108 ―⑪ 中世大和絵における花木表現の研究─出光美術館蔵「四季花木図屏風」について─研 究 者:玉川大学 芸術学部 教授 加 藤 悦 子はじめに出光美術館に所蔵される「四季花木図屏風」は、現存する中世大和絵屏風の内でも、取り分け年代が遡ると同時に、正系の大和絵師による作例と目される看過できない重要な作品である(注1)。しかしながら、多くの中世大和絵屏風と同様に、その作者と制作年代の判定は推測の域に留まっている。ここでは、その課題に応えるには至らなかったが、作品調査によって得られた知見を基に(注2)、その花木の表象する意味を、梅・松・竹を中心に考察し、当作品の特質を指摘、後日の考察の端緒としたい。Ⅰ 作品の概要本作品は縦152.5cm、横311.8cm(右隻)及び310.6cm(左隻)の六曲一双屏風である〔図1〕。仕立て直しの折に、多少画面が縮小された可能性があるが、ほぼ当初の状態を留めていると認められる。右隻には、開花の盛りの紅梅が右端に、中央2、3、4扇には2本の松が大振りに配され、その左方には小姫百合と紫陽花が丈高く描かれる。また岩の合間からは、藪柑子と熊笹が所々顔を覗かせる。これに対し左隻は、2、3扇目を中心にたっぷりとした青竹が立ち、その左方4、5、6扇には竜胆、萩、薄、女郎花からなる秋草と紅葉の大木が華やかに描かれる。さらにその上方には雪を被った松と遠山が可愛らしい姿を僅かに覗かせ、四季を備えた花木図となっている。両隻を通じて画面下方には、穏やかな水波の繰り返される水面が続き、一双屏風としての繋がりをつくり出している。一見したところ、あたかも庭前の自然景を思わせるが、全体の構図は、ほぼシンメトリーである。すなわち画面下方には、紫陽花と小姫百合の生える中央の岩を頂点とした二等辺三角形が形作られ、構図に安定性を与えている。よく見ると左右隻の岩の数はそれぞれ5つずつであり、その配置もほぼ対称となっている。また中央の岩の左右には画面上方に向かって末広がりに伸びる2本の青松と6本の青竹が対称に配され、さらにその外側の土坡上には、画面内側に枝幹を伸ばす、朱や丹の暖色に彩られた紅梅と紅葉が1本ずつ描かれている。すなわちシンメトリカルな構成は、モティーフの数や形態、さらに色調にまで及んでおり、それが当作品の穏やかで安定した印象を生み出しているといえる。銀白色に輝く、銀箔の細
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