鹿島美術研究 年報第28号別冊(2011)
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3.「四季山水図」五幅対における四季表現と八景モチーフの役割池大雅筆「山居観花図」・「高士観泉図」・「南極寿星図」・「江上笛声図」・「雪天夜明図」〔図9〕(出光美術館蔵、以後、「四季山水図」と呼ぶ)は、南極寿星図を中心に四季山水が組みとなっている五幅対である。中幅の南極寿星図の落款には「辛巳冬日」とあることから、宝暦十一年(1761)の冬、大雅数えで39才、冬に制作されたことが知られる。それぞれの幅の画賛は、元の方回が選評した詩集『瀛奎律髄』のうち「春日類」「夏日類」「秋日類」「冬日類」から一首ずつ採られている。ところで、「瀟湘勝概図屏風」の洞庭秋月の、舟の上で笛を吹く唐子は、この五幅対の秋幅の中で初めて登場している。従来、このモチーフは秋幅の上側に書された「長笛一聲人倚樓」という賛を絵画化していると考えられてきたが、この賛は「秋日類」に載る趙嘏「長安晩秋」からの引用であることが解った。(注13)― 145 ―には、墨の薄い輪郭線の上から点描によって、人物の楽しげに酒を酌み交わす様子〔図7〕が表されており、真夏の強い光の反射を表している(注12)、本屏風でも類似の手法によって一日の時間の移り変わりによる光の変化が表されていると考えられる。このように「瀟湘勝概図屏風」においては、一扇ずつの一画面内に八景を配置する際に、近い時間帯の情景どうしを組み合わせて構成に繋がりを持たせていることが読み取れるのである。次に「瀟湘勝概図屏風」の洞庭秋月で重要なモチーフである吹笛の唐子〔図8〕は、大雅の「四季山水図」の中で初めて登場していることに注目してみたい。雲物凄涼拂曙流、漢家宮闕動高秋。残星幾點雁横塞、長笛一聲人倚樓。紫艶半開籬菊浄、紅衣落盡渚蓮愁。鱸魚正美不歸去、空戴南冠學楚囚。(『瀛奎律髄彙評』巻之十二、賛は下線部分)(雲はものさびしく、夜明けの空に流れてゆき、漢王の宮門の開く音がさわやかな秋の日にひびく。消えかかったいくつかの星に照らされて要塞の上を雁が飛んでゆき、ひとしきり長く余韻を引く笛の音を人は高殿の欄干にもたれて聞いている。紫色の美しい花を半ば開く垣根の菊はきよらかで、紅い花びらをすっかり落としたみぎわの蓮はものさびしい。鱸魚はちょうど食べ頃でどこかに去ったりはしない。空しく南方の冠をかむって、楚の囚人のようには帰れぬまま故郷を思う。)また、冬幅の賛は「冬日類」に載る陳止齋「用韻詠雪簡湘中諸友」を引用している。■■■■■■■■

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