⑹ 『人間救済の鑑』と、同書の15世紀の芸術家への影響については、以下を参照。É. Mâle, L’art 注⑴ ヤコブス・デ・ウォラギネ、前田敬作ほか訳『黄金伝説 I』人文書院、2006年、115−116頁。この伝承が形成された経緯については、以下を参照。P. Verdier, “La naissance à Roma de la vision de l’ara Cœli,” Mélanges de l’École française de Rome. Moyen âge, temps modernes, 94, 1982, pp. 85−119.⑵ 教会の起源は6世紀にまで遡るが、「アラ・チェーリ教会」と呼ばれるようになるのは1323年⑸ オリジナルの現所在地は不明だが、コピーがブリュージュ市立美術館にある。また、この祭壇画の翼部分は、16世紀中頃の様式で描かれているため、ヤンのオリジナルを反映しているとは限らない。S. Jones, “New evidence for the date, function and historical significance of Jan van Eyck’s ‘Van Maelbeke Virgin’,” The Burlington Magazine, 148, 2006, pp. 73−81. in part. pp. 77−78. よって本稿では、参考程度にとどめたい。1969, pp. 17−28; D. de Vos, Rogier van der Weyden, l’œuvre complet. Paris, pp. 242−248.のことである。Verdier, op.cit., p. 97.及されている。― 160 ―結⑶ L. Réau, Iconographie de l’art chrétien, II/I, Paris, 1956, pp. 421−424.⑷ Réau, op.cit., p. 422; Verdier, op.cit., pp. 100−101. これらの文献では、イタリアの他の作例にも言religieux de la fin du moyen âge en France, Paris, 1949, pp. 236−237.⑺ この作品については以下を参照。S. N. Blum, Early Netherlandish Triptychs, Berkeley & Los Angels, ⑻ Mâle, op.cit., p. 255.⑼ デ・ウォラギネ、前掲書、116頁。⑽ E. Knauer, “A Cvbicvlo Avgvstorvm,” Zeitschrift für Kunstgeschichte, 33, 1970, pp. 332−339.本調査研究により、初期フランドル絵画における「アウグストゥスの幻視」が以下のように変容したことが明らかになった。まず、15世紀中頃までは、三連画の翼などに付随的に描かれ、キリストの伝承や予型を示す役割を担った。同時に、個人祈祷を助ける側面も強く、祈祷者像との関連も深かった。しかし、1470年頃から、本題材は単独で扱われるようになり、奇蹟は多くの目撃者に囲まれ、中庭で展開することとなる。それに伴い、本題材の信仰に関わる宗教的機能は弱くなるが、宮廷社会における古代ローマへの関心のもと、場面が観賞者の属する社会に重ねられ、注文主の特権的地位を誇示する役割を担うようになった。そして、本研究における通時的な調査により、ティブルの巫女の画家作品は、「アウグストゥスの幻視」に新たな意味と機能をもたらした点で、転換点となる重要な作品であることが判明した。「アウグストゥスの幻視」は、トリエント公会議(1545−63年)を境に描かれなくなった(注40)。しかし本題材は、その時まで、フランドルの注文主の意識の変化を反映した重要な題材であったと位置づけられるだろう。
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