鹿島美術研究 年報第28号別冊(2011)
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4 その他の地域神■と未完成仏神像阿蘇高千穂等以外の注目される神像を取り上げる。⑬木造女神坐像〔図11 熊本球磨郡・某大王神社蔵〕: 榧材、一木造り(内刳りなし)、淡彩像。像高41.2センチ。衣を二重に着用した上から袿を着け、右肩から懸守らしき紐をかけている。目尻を下げ笑窪を彫りあらわし、膝をくずして座す。面貌を丁寧に造形し、奥行きと量感ある体躯の造形から平安末期〜鎌倉時代前期ころの作とみられる。本像が祀られている某大王社も、球磨郡の郡衙跡に比定されている地域に存しており、郡衙関係の何らかの神社に祀られていた可能性が考えられる。― 261 ―⑭木造神将形立像〔図12 熊本球磨郡・某Ⓑ霧島神社蔵〕: 針葉樹材、一木造り(内刳りなし)、像高107.9センチ。眦をつり上げ、両眼を突出するように彫出し、大きく歯相をあらわす厳しい面貌の神将形像。体部には、領巾や胸甲など装甲を省略的にあらわす。両眼の表現などは、9世紀の神像を彷彿とさせるが、浅く彫り整えられた面貌や甲からみて11〜12世紀の作と思われる。厳しい面貌表現は通常の神将形像ではなく、「神威」をあらわす武装神像とみられる。⑮木造毘沙門天立像〔図13 熊本球磨郡・荒茂毘沙門堂蔵〕: 榧材、一木造り(内刳りなし)、像高106.0センチ。動きが少なく量感のある体躯から11〜12世紀ころの作と見られるが、正面の装甲を省略的に表現し、背面には兜から裾までノミ目を残している点が注目される。本堂には、この毘沙門天像と同時期一具とみられる吉祥天立像も祀られているが、吉祥天像にはとくに未完成表現は見あたらない。《考察》従来から先学により仏神像の未完成表現が注目され、研究が重ねてられてきたが、最近、鈴木麻里子氏は仏神像の未完成表現を分類し考察を加えられた(注18)。鈴木氏の分類に従えば、⑭像は表面の一部を彫出しないことで、⑮毘沙門天像はノミ目を残すことで、また一具のうち一方を未完成とすることで全体の未完成を表現していることになろう。熊本県内でも、像の表面にノミ目を残す仏神像、あるいは薬師像などで後頭部の螺髪を彫り残す作例は、相当数が確認されている。むしろ当地の平安後期〜鎌倉時代の神像の大部分は、体表面のどこかに未完成を残しているようにもみられるのである。なお、⑮毘沙門堂は、古代球磨郡随一の豪族・須恵氏の氏寺跡に比定されており、毘沙門天・吉祥天像が祀られていることから須恵氏によって『金光明最勝王経』にもとづいた「吉祥悔過会」が催行されていた可能性がある。肥後では、天長3年(836)の「浄水寺寺領碑文」中に「吉祥悔過料」の文言がみえ、すでに9世紀前半には吉祥

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