2−1.文様施文主導タイプまず、文様施文行為が主導する土器の例をみていく。― 322 ―タックスを用いて縄文中期の代表的な土器の造形構造を分析する。なお、作品データは、土器名、出土地、高さ、所蔵先、図版番号の順で示し、続いて、施文と器形形成の双方における表現の強さを+の数で示す。①把手状装飾付深鉢 富山県氷見市朝日貝塚 高37.4cm東京大学総合研究博物館〔図2〕文様施文 +++器形形成 +本土器は、1929年の平凡社『世界美術全集』でも一頁を飾り、画家・横山大観や岡本太郎により注目されてきた土器である。シンタックスによる分析では、胴部の文様は螺旋状に旋回しながら上昇し、口縁部の突起へと視線を導く。基本器形は、煮炊きの用途に即した筒状の形態に納まっている。執拗な繰り返しと刺々しい質感による迫力ある表面の文様表現により、外に向かって拡散される動きの印象を持つ。すでに大正時代から図案家・杉山寿栄男により原始工芸として技術の精度が評価されてきた。本土器は、深鉢の基本器形を逸脱してはおらず、器形の動きは少ないが、器面の強烈な物質観が全体の動的な表現を支えている。②火焔型土器(笹山国宝NO.1) 新潟県十日町市笹山遺跡 高46.5cm十日町市博物館 国宝〔図3〕文様施文 +++器形形成 ++火焔型土器はその造形性ゆえに一般的な知名度は高いが、美術図版では1951年の展覧会図録より弥生土器と対比される形で登場する(注9)。同様式の土器はこの地域の限られた時期にまとまって出現するが、1999年に縄文土器で初めて国宝に指定されたこの十日町・笹山遺跡の火焔型土器が、もっとも美しい器形のバランスを持つ。鶏頭冠把手と称される口縁部の四つの突起は、ゴシック建築の跳梁のように支えあいながら上昇し、連続した「ねじれ」のリズムを持って配置されることで、風車のように旋回する動きを生み出している。筒状の胴部は半截竹管状工具による垂直方向の半隆起線文の充填を主とするが、その上部に頸部と同じ水平のS字状文様を施すことによ
元のページ ../index.html#333