― 323 ―り、頸部と胴部は自然に連続する。このタイプの土器の特徴でもある底部いっぱいまでの施文表現は、原始美術に特有の空間恐怖による文様の充填とは一線を画し、圧迫感よりも美しさを感じさせる。その要因は、複雑な彫塑の技術にあるのではなく、器形全体における文様の配置のバランス、自然な視点の誘導にあると言えよう。本土器は全体としては施文意識が主導するタイプと言えよう。特に頸部より上の部分において器形の形成意欲が強く表れている。③焼町土器Ⅰ 群馬県道訓前遺跡 高62.0cm渋川市教育委員会 重要文化財〔図4〕文様施文 +++器形形成 +焼町土器は、長野東部から群馬を主要分布域とする土器で、「突起部・口縁部に施される円文が平滑化・面化し、円盤状となる」文様装飾の特色を持つ(注10)。本土器は2007年に重要文化財に指定された群馬県道訓前遺跡の土器で、考古学者により手をつなぐ2組の男女として図解され、人物形象に関する資料として2009年の「土偶展」(大英博物館・東京国立博物館)にも出品された(注11)。本土器は大型なサイズにより、底部を残し埋め尽くされた文様が圧迫感よりも雄大な動きの印象を作り出すことに成功している。考古学ではキャリパー形と称される上部の広がる深鉢の基本器形が明瞭であることと、頸部と胴部を分断する線の表現により、器形の動きは固定化され、文様の施文意欲が勝って感じられる。この土器にはカマレス土器の分析でいうところの「拘束された拡張」というシンタックスが当てはまるであろう。④勝坂式土器Ⅰ 長野県茅野市下ノ原遺跡 高32.5cm茅野市尖石縄文考古館 重要文化財〔図5〕文様施文 +++器形形成 ++本土器は、2006年の青森県立美術館における「縄文と現代展」、2008年の兵庫陶芸美術館における「縄文展」に出品され、近年、美術的に注目されている土器である。その要因は、アシンメトリーな充填文様と口縁部の彫塑表現の、美術作品としての自律性を認識させる造形構造によるものと推測される。施文領域としての器形自体の動きは抑えられ、施文意欲が強く感じられる。本土器の文様は均一に配され、地と図という文様間のヒエラルキーを見出すことは困難に等しい。そのため、シンタックスに
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