2−2.器形形成主導タイプ次に、先に挙げた二点の土器とは異なる、施文よりも器形を構築する意欲に主導さ― 324 ―よる分析も困難なタイプである。れた表現の土器を見ていく。⑤把手状装飾付深鉢 東京都国分寺市多喜窪遺跡 高36.0cm国分寺市教育委員会 重要文化財〔図6〕文様施文 +器形形成 +++本土器は、この様式の土器の中で最も多く美術図版に登場し、1955年に近代美術館で行われた「現代の眼 日本美術史から展」や、1963年の『國華』の縄文特集号の巻頭図版にも登場し、重要文化財にも指定されている。太く力強く隆起する線により形作られる突起部分や、通常の煮炊きの用途に即さないような屈曲したリズムを持った器形が目を引く。かつて岡本太郎により、「空間感覚」が評価され、アントワーヌ・ペヴスナーらの抽象彫刻との形式的類似性が見出されたのは、写真資料より、環状の突起を有すこのタイプの土器と推測される。この算盤形の屈曲した器形の胴部の文様は、地紋として極力抑えられ、口縁部の突起の彫塑表現に視線の集中を促す。しかしながら胴部を垂下する一条の隆線文の存在により、口縁部のみが突出した印象を持つことは回避され、胴部との連続性は保持されている。この口縁部の突起の文様は、蛇などの生物に例えられてきたが、その具象性は後に挙げる〔図7〕や、〔図12〕の土器ほど強くは無い。ここから、中期土器における具象性のある文様の使用は、地と図の明確な意識の上に成立していることが分かる。本土器は、完全なる無文の地も持たないゆえに、完全なる具象文も持たないと言うことができるだろう。ここでの器形は、文様が描かれるためのカンヴァスとして存在するのではなく、それ自体で自律した造形の構築を志向している。⑥顔面把手付深鉢形土器 長野県海戸遺跡 高43.5cm市立岡谷美術考古館 重要文化財〔図7〕文様施文 +器形形成 +++本土器の出土地域からは、現存する中で最も美しいと評価される精緻に造られた顔
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