鹿島美術研究 年報第28号別冊(2011)
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2−4.カンヴァスタイプ次に、施文意欲と器形形成意欲の関係といういままで考察してきた分析方法にあて3.縄文中期土器の美術様式次に、前章で個々に分析してきた結果を、文様施文に関する造形意欲の表出を縦軸に、器形形成に関する造形意欲の表出を横軸にとった〔図13〕の表に示す。この結果から、〔図12〕⑨のカンヴァスタイプの土器は器形形成意欲よりも描画意欲が勝るため、所謂中期の動的な土器のイメージとは離れた別種の造形構造を持つことがわか⑧焼町土器 長野県北佐久郡御代田町川原田遺跡 高31.6cm浅間縄文ミュージアム 重要文化財〔図10〕文様施文 ++器形形成 ++本土器は考古学上では〔図4〕③の文様主体のタイプと同じ焼町土器に属すが、口縁部の曲線および斜めの角度を持つ円文の貼り付けにより、流れるような「ねじれ」の動きを強調する点において異なる造形構造を持つ。近年では2008年の兵庫陶芸美術館の「縄文展」に出品されている。カマレス土器の場合、「ねじれ」(torsion)の構造〔図11〕は、「統一装飾」ならではの表現として美術的に高く評価される。本土器では、その「ねじれ」の表現を文様と器形の両方で表し、しかも両者の造形意欲が拮抗し続けることで、緊張感を生み、ダイナミックな動きを作り出している。はまらない、ならされた器面に図像が配置される例を見ていく。⑨有孔鍔付土器 山梨県鋳物師屋遺跡 高54.8cm南アルプス市教育委員会〔図12〕文様施文 +++器形形成 −この土器は、あまりにも絵画的であり、今まで見てきた、文様と器形の関係から見る造形構造の原則から外れるため、シンタックスを用いることが困難な土器である。本土器の考察はまるで、カマレス土器の中に紛れ込んだ、黒像式や赤像式のギリシアの壺絵を見るようである。人形が描かれているというわかりやすい造形構造を持つため、美術図版や展覧会への登場は多い。器形は図像のためのカンヴァスとして成立しているため、器形の形成よりも文様施文が主導するタイプに分析できるであろう。― 326 ―

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