― 339 ―対して、異なる境遇で育てられた双子の姉妹ズラミットとマリアは、対照的な個性をもちながらも外見は瓜二つである。この点は強調してよいように思われる。なぜならばそれは、18世紀思想に共有されていた「分裂した魂」のアイデアと一致するからである(注14)。ディドロやゲーテ等多くの知識人が、自らの中に宿る二つの魂を統合する困難について告白しているが、このことは、なぜ「分かれ道のヘラクレス」が18世紀に人気を博し、様々なヴァリエーションを生み出したのかを知る手掛かりを与えてくれるのではないだろうか。その他、ヘラクレス/プシュケと極めて近い関係にあると思われる兄弟/姉妹像を数点指摘しておきたい。ゲオルク・ヴァイチュ作《フリードリヒ・ヴィルヘルム二世の胸像に花をささげるルイーゼとフリデリーケ―バーゼルの和平の寓意》(1795)〔図12〕は、「友愛像」の先駆的表現として挙げられる作品である。姉妹の庇護者として象徴的に国王の胸像を配置し、二人一対の肖像でありながらも、「ヘラクレス型」の痕跡を留めた表現となっている。同様に、ヴィルヘルム・シャードウの《兄リドルフォとトーヴァルセンのいる自画像》(1817)〔図13〕もまた、兄弟の友愛を祝福する人物として、「現代のフェーディアス」を二人の間に配置した例である。友情図の流行が陰りを見せ、芸術表現が全体として保守化し始めた時に描かれたこの作品は、絵画対彫刻というルネサンス以来の議論を取り上げ、兄弟間の相似性よりも対比を強調し、より「ヘラクレス」型への依存を深めている。そうした作品の中、フリードリヒ・ブリによる姉妹の肖像《アウグステとヴィルヘルミーネ》(1810)〔図14〕は、友愛像に特徴的な諸要素を総合した作品として特筆される。プロイセン王家に生まれたアウグステとヴィルヘルミーネ姉妹は其々異なる君主に嫁して生き別れたが、皮肉にもナポレオン戦争下の亡命先としたベルリンで再会、姉妹の友情の記念碑としてこの作品が描かれた。二人の女性が棕櫚の木を中央に左右に分かれて立つ左右相称の構図は「ヘラクレス」のタイプを踏襲しているようだが、互いの鏡像のような相貌、手をつないで直立するポーズは「友愛像」の典型であり、プシュケに始まる魂の結合の表現と考えられる。「友愛像」は、感情過多なロマン派美術の時代を象徴する主題であるが、その表象は、「分かれ道のヘラクレス」が呈する弁証法的枠組み、そして「アモルとプシュケ」にみられる左右相称の群像表現の蓄積があって初めて可能となった。イニシエーションを経て新たな生を得るヘラクレスやプシュケのような存在は、フランス革命前後の混乱期にあって、未来への希望を繋ぐ象徴となりうる存在である。革命直後、ごく短期間ではあるが「友愛」によって結ばれた社会が現出し、ヨーロッパは多幸感に包ま
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