1.酒呑童子屏風の形成期─絵巻から屏風へまずは酒呑童子屏風の形成期に当たる時期に、祖型が制作されたと思しき系統の作例について述べたい。これらはその構図形式から大きく二種類に分類することができ、いずれも様式から判断して近世初期から中期にかけての制作と見られるものが多い。あくまで現在確認できている作例からの予測とはなるが、酒呑童子屏風の成立は、以下の第一類の原型と、第二類の画面構成を持つものとが比較的早く、近世に入って― 354 ―㉝ 屏風形式の酒呑童子絵に関する総合的研究研 究 者:山口県立美術館 学芸員 岡 本 麻 美はじめに─問題の所在古来より広く人口に膾炙してきた「酒呑童子説話」は、源頼光と四天王である武将達を主人公とした、有名な鬼退治譚である。これを絵画化した酒呑童子絵もまた中世から近世にかけて盛んに制作されてきた。現存最古の作例である「大江山絵詞」(逸翁美術館蔵)、また多くの酒呑童子絵における基本図様となっている狩野元信筆「酒伝童子絵巻」(サントリー美術館蔵、以下サントリー本)など、管見の絵巻作例に限っても100に迫る伝本があって、その愛好のほどを物語っている。さて当説話の研究動向に目を向けると、詞書の分析を主として酒呑童子説話研究を牽引してきた国文学の側より、本文系統の整理とは別に、絵画の側からその変遷を追うことが昨今望まれている(注1)。これに対し報告者は、絵巻の絵に対する精査はもちろんのこと、直接的な付随テクストを持たない屏風形式の酒呑童子絵の分析を交えることで、その展開はいっそう立体的な議論が可能になると考える。なお、これまでの本説話における研究対象は、絵巻の作例がほとんどであった。屏風形式を持つ酒呑童子絵については、カタログ等に掲載される数例の作品解説と、ごくわずかな論考があるのみで現存諸作例の全体的把握といった網羅的な基礎研究すら未だなされていないのが現状である。以上の問題意識を持って、本研究では酒呑童子説話を題材とした屏風絵の作例について、広く作品の調査を行いその概要把握を目指した。本報告では現時点で画面を確認しえた作例17点に対して分類整理を施し、その展開に関する試案を提示したい。同時に考察の過程で明らかとなった、絵巻から屏風というメディアの移行に伴う画面構成上の創意工夫、詞書から自立しゆく絵画がもたらす説話文脈の変容に関する知見を示していくこととする。
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