鹿島美術研究 年報第28号別冊(2011)
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― 356 ―⑤ 兵庫歴博本「酒呑童子図屏風」兵庫県立歴史博物館、六曲一隻〔図2〕様式より近世初期狩野派の作と考えられる屏風(注3)。おそらくは左隻が失われているが、残された右隻にはサントリー本に描かれる場面の中盤までが、冒頭から全て含まれている。絵巻の場面を極力欠かさず屏風へと移行する意向が窺えよう。限られた画面に多場面を収めていくため、樹木や調度品などの装飾は出来る限り省かれ、必要最小限の主要人物とキーアイテムが抽出されている。⑥ プライス本「酒呑童子図屏風」心遠館、六曲一双『舊大名御蔵品入札目録』(昭和13年11月8日入札、東京美術倶楽部)9番に「古画金地大江山六枚折屏風」と図版が掲載されており、その後某家を経てプライスコレクションの所蔵となったと考えられる。旧大名家の所蔵品に相応しく、盛り上げ型押しの金雲や極彩色の楼閣に彩られた豪華な画面である。岩や人物の面貌などに狩野派風の特徴が見られ、17世紀半ばの狩野派作例か。⑦ 池上本門寺本「大江山縁起図」池上本門寺、六曲一双〔図3〕⑧ 『某家所蔵品入札』掲載本「大江山小屏風」所在不明、六曲一双⑨ 『旧大名某旧家蔵品入札』掲載本「時代金地大江山」所在不明、六曲一双⑦は池上本門寺に所蔵される小屏風。箔押しによる金雲、地に密に施された箔散らし、厚い岩絵具と艶のある墨など、保存状態も良好な濃彩の作例。人物の反り返った足の指先など、画風には又兵衛風の要素を見いだすことができ、岩佐派の酒呑童子絵巻とも共通モチーフを有することから、恐らくは岩佐派工房の手になるものと判断される。年代はおよそ17世紀半ばから後半頃であろう(注4)。⑧は『某家所蔵品入札』(昭和17年5月21日入札、大阪美術会館)に「光起 金地大江山小屏風 一双」として、モノクロ図版が掲載されるもの。この作例は池上本門寺本と極めて近い画面を持ち、同工房での量産を窺わせる。これについては改めて後述する(注5)。『旧大名某旧家蔵品入札』(昭和14年11月13日入札、東京美術倶楽部) に掲載される⑨の金地六曲一双小屏風も、基本的な構成と図様はほぼ⑦⑧と同じ。同粉本ないしは同類諸本を基本として、改変を加えたものと考えられる。⑩ 佐竹永湖筆「大江山屏風」所在不明、六曲一双『中村家所蔵品入札』(大正8年10月27日入札、東京美術倶楽部)に掲載される作品。左隻の落款印章より佐竹永湖(1836−1909)の作とわかる。サントリー本系の図様を

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