注⑴ 斉藤研一「絵画史料と文学史料─酒呑童子物語を題材に」『中世文学研究は日本文化を解明で⑷ 本屏風の様式をめぐる考察は、別稿にて執筆予定。― 361 ―【第五類】⑯ 江差法華寺本、江差法華寺、六曲一隻⑰ 長安周得筆「大江山図屏風」、個人、六曲一隻〔図10〕⑵ 美濃部重克,美濃部智子『酒呑童子絵を読む まつろわぬものの時空』三弥井書店、2009年、⑶ 『企画展 近世の屏風絵』(兵庫県立歴史博物館、1988年)の解説によれば、江戸初期、狩野元終わりに挙げる第五類は、いずれも酒呑童子の館へと向かう道中、川に渡された大樹の幹を渡る山伏姿の頼光らを、屏風全体に大きく描く、単一画面をクローズアップした作例である。一見同じ場面を描いているように見える両本であるが、周得本は、大江山に向かう頼光等を導く人物が、三神でなく翁一人である。これはいわゆる酒呑童子絵巻のテクストに基づく内容ではなく、近松門左衛門の浄瑠璃「酒呑童子枕言葉」(注12)の一場面を描いたものと考えられる。頼光等が樵夫と出会い道を尋ねる場面で、彼は山向こうを指さしながら「白き雲かと見へたるは。おそろしき鬼が城よりながれておつるたきの水」と述べる場面があるが、屏風では翁の指し示す霞の向こうに滝が流れる事からも、この場面にあたるものと判断されよう。一類から三類までに見た「酒呑童子絵巻」の作風を残しながら屏風へと展開した作例は、あくまで物語の全貌を描き出すための創意工夫がなされていた。しかしこれとは逆の方向で、ある特定のエピソードに注目し抽出する第四、第五類の作例は、「酒呑童子絵巻」以外のテクストへと積極的に交流展開していくのである。おわりに以上、酒呑童子屏風をめぐる展開について、そのごく概要を報告した。多様な展開の合間に種々の興味深いトピックを垣間見せる「酒呑童子屏風」は、中世期の絵巻形式から近世大画面へと展開する、物語絵画様式研究の一モデルと成りうる対象であるといえよう。今後は個別の作例に関する考察をいっそう掘り下げ、その受容の場を含めて調査を続けていきたい。51頁。美濃部氏架蔵本の図版も同書に掲載される。きるか』笠間書院、2006年 など。秀の系統の画人によるものとする。
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