鹿島美術研究 年報第28号別冊(2011)
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研 究 者:東京藝術大学大学院 美術研究科 博士後期課程  深 田 麻里亜はじめにローマ北西部、モンテ・マリオに建つヴィッラ・マダマは、教皇レオ10世の依頼でラファエッロが設計したメディチ家の迎賓用建築である〔図1〕。1520年にラファエッロが没し、翌年にレオが死去した後、建築計画は枢機■ジュリオ・デ・メディチ(1523年に教皇クレメンス7世として登位)に引き継がれ、ジュリオ・ロマーノ、ジョヴァンニ・ダ・ウーディネらによって内部の装飾が実施された。1527年、「ローマ劫掠」によって計画が中断すると、全体案の一部のみが実現した未完の状態のまま、ヴィッラの建造は放棄される結果となった〔図3〕(注1)。本稿では、建築史的観点からの研究が主流であったヴィッラ・マダマに関して、これまで詳細に検討されてこなかった「庭園のロッジャ」内部装飾のうち、左廊と呼ばれる南西側ヴォールトを考察対象とする〔図2〕。3つの径間からなるロッジャにおいて、中央の径間ではメディチ家の紋章を中心に「四季」と「四大元素」の擬人像が表され、その周囲にはオリュンポスの神々、ムーサたちが配されている。中央径間を挟み、南西と北東に展開する2つの径間では、南西側の左廊ヴォールト〔図2、図3:IV〕中央にストゥッコ浮彫メダイヨンで海神《ネプトゥヌス》〔図4〕が、北東側の右廊ヴォールト〔図3:V〕では海のニンフ《ガラテア》が表され、水が装飾の中心テーマであることが分かる。クラウディア・チエリ・ヴィアは、こうした水と関連する主題はテヴェレ河を望む景観や、「俗なる愛の水への浄化」という哲学的テーマと関連すると言及している(注2)。実際、ロッジャを含む現存する建築は、本来の建築構想では夏季用の棟として水辺での避暑が意図されており、ロッジャ内部の装飾主題を庭園の泉や養魚池と関連付けることもできるだろう(注3)。しかし、装飾の主題に関するこれ以上の論及は行われておらず、ヴォールトの頂点という図像プログラム上の基点となる位置になぜ《ネプトゥヌス》の主題が選択されたのかを解読する試みは行われていない。以下では、左廊ヴォールト中央のストゥッコ浮彫メダイヨン《ネプトゥヌス》が持つ図像上の重要性について検討を行う(注4)。― 31 ―④ ヴィッラ・マダマ、左廊ヴォールトの《ネプトゥヌス》─「クオス・エゴ」と教皇レオ10世称揚の図像─

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