― 442 ― 一 しゝら御小袖 壱 一 そめさや御小袖 弐 一 そめもの御小袖 拾六 一 白御小袖 但綿なし 三拾七 一 あやの御小袖 綿なし 四 一 そめ物の御小袖 綿なし 壱 一 白はふたえ御袷 壱 合御小袖六拾六 内壱御袷」 (以下、御反物・御羽織など略)「御めし領」の小袖類の中でも「そめもの御小袖」と記される16領が、本作を含めた現在徳川美術館に所蔵される家康所用葵紋付小袖類にあたると考えられている(注9)。日常に供される消耗品であり、伝来をたどる事が難しい服飾品にあって、「駿府御分物」は、着用者と伝世の経緯が知れる近世初頭の稀有な遺品といえる。作品調査の結果、実測寸法は、身丈138.0(以下単位はcm)、裄63.6、前幅36.5、後幅36.8、袖丈53.8、袖幅26.6、袖口21.8、衽幅23.8、衽下り10.8、襟幅17.0、立褄33.5である。現状は、綿入袷仕立て、表は紺練緯地とする。裏地は紅練緯地であったが、上半身を中心に横方向の亀裂による破損が進み、昭和56年(1981)に行われた修理の際に紅平絹に新調された(注10)。形態は、身幅が広く、立褄が短いといった、桃山時代から江戸時代初頭の小袖の特徴を示しているが、袖幅は26.6cmとやや広く、制作年代が江戸時代に近いことをうかがわせる。槍梅の意匠は、垂直方向に鋭く伸びる枝を縫い絞りで表し、梅花は鹿の子絞りに巻き上げ絞りをアクセントとして加えてリズムをつくっている。槍梅の間には、五つ紋とは別に葵紋を散らし、全体として余白を意識した洗練された構図となっている。このような意匠構成は、「肩裾」などの桃山時代の意匠とは一線を画しているといえるだろう。三つ葉葵紋については、五つ紋と散らし紋に明確な差別化の意識が認められる。全体に不規則に散らされている葵紋は径6.8〜7.3cmで外円はなく、白抜きとした中に浅葱、萌葱、鶸色の葉を1枚ずつ染め分け、描絵によって葉脈のみならず病葉や虫食いの様子までが描き込まれる。さらに、葵紋は本来、下部に2枚、上部に中心の葉が1枚乗る上向きの状態で表されるが、本作の散らし紋には意図的に傾けた状態の葵紋〔図4〕が数多く見られる。これに対して五つ紋の位置には、径5.3〜5.7cmと散らし紋よりも小ぶりな葵紋が置かれ、外円を伴い鶸色に染め分け、白抜きにした内円中に浅葱の葉2枚と萌葱の葉1枚を描絵を併用して表す。葉には病葉などは描き込まず、
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